Chapter 1 of 1
Chapter 1
こころにひまなく詠嘆は流れいづ、その流れいづる日のせきがたく、やよひも櫻の芽をふくみ、土によめなはさけびたり。まひる利根川のほとりを歩めば、二人歩めばしばなくつぐみ、つぐみの鳴くに感じたるわが友のしんじつは尚深けれども、いまもわが身の身うちよりもえいづる、永日の嘆きはいやさらにときがたし、まことに故郷の春はさびしく、ここらへて山際の雪消ゆるを見ず。我等利根川の岸邊に立てば、さらさらと洋紙は水にすべり落ち、いろあかき魚のひとむれ、しねりつつ友が手に泳ぐを見たり。(室生犀星氏に)
●図書カード