Chapter 1 of 4
一
S・S・ヴァン・ダインは、数年前彗星のようにアメリカに出現して、一挙に、数あるアメリカの探偵小説作家の中で、群を抜いて王座をしめた作家である。
『ベンスン殺人事件』『カナリア殺人事件』『グリーン殺人事件』『僧正殺人事件』その他に近作一つと都合五つの長編小説を著わし、他に若干の短編小説がある。
そのうちで前の三つは既に映画化され、ウィリヤム・パウエルの主演で、三つとも日本へ輸入された。三つともトーキーであったが、最初に来た「カナリア殺人事件」は日本にまだトーキーの設備のできない時分だったので、サイレントで興行されたと記憶している。
もともと探偵小説の映画化は、困難であると見えて、シャーロック・ホームズ物にしても、ルパン物にしても、かつて成功したためしがない。トーキーは、その点で、サイレント映画よりも多少の便利をもっている。けれどもヴァン・ダインの作品の映画化は、どれも大して成功とは思われなかった。それだのに、映画会社が、引きつづき彼の作品を三つまで映画化したということは、彼の人気がどれほど異常であるかを知るに足る。