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五階の窓 02 合作の二
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五階の窓 02 合作の二
平林初之輔
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译文 Pagera AI
原文 Public Domain
Chapter 3 of 5

8

「ふむ」

と、山川署長はだいたい満足はしたが、少々腑に落ちぬところがあるというふうな態度で言った。

「その北川はまだ自白せんのだね?」

「図々しいやつです。これほど罪跡が明瞭になってるのに、まだ隠しているなんて。ああいうやつにかかると始末に負えません。だが、今晩じゅうには泥を吐かせてご覧にいれますよ」

と、恒藤主任はぷりぷりしながら言った。彼は署長が自分の説明にまだいくぶん物足りなさを感じているらしいのに気がついて、それが不平でたまらなかったのである。

署長は黙って聞いていた冬木刑事を顧みて、

「ときに、きみのほうで何か新しい材料が見つかったかね、冬木くん」

と言った。

「べつにたいしたことでもありませんけれど、少しわたしも調べたことがあります。ただいまの主任のお説はたいへん面白く拝聴しまして大いに参考になりましたが、一、二の点についてわたしには異論があります。それを申し上げてもよろしゅうございましょうか」

「ほほう。そりゃ面白い、言ってみたまえ」

と言いながら、署長はこんどは冬木のほうへ椅子をにじり寄せた。

恒藤主任は嘲るような態度で、無言のまま冬木の口もとのあたりを見つめた。

「わたしはまず、第一に主任が、被害者があのビルディングの五階の窓から突き落とされたのだと断定なさったことに少々疑いを持っているのです」

「ほほう。ではなにかね、被害者は五階の窓から突き落とされたのじゃないと言うんだね?」

「少なくとも、五階の窓以外のところから落ちても、死体があの場所にあり得ると考えるのです」

「なんだ、そんなことか、何かと思ったら」

と、恒藤主任は少なからず軽蔑の色を口辺に浮かべながらそっぽを向いた。

「二階から屋上まで、落ち場所が五カ所ありますからね」

と、冬木刑事は主任のほうは見向きもせずに言葉を続けた。

「で、きみは被害者がどこから落ちたと言うんだね?」

「落ちたと申し上げるのではなくて、落ちたとすれば落ち場所が五カ所あり得ると申し上げたのです。が、わたしは被害者は、おそらく五階の窓からもそのほかの四つの場所からも、落ちたのでも突き落とされたのでもなかろうと思うのです」

「ふん、そりゃまた妙な考えだね」

と署長はもう一度、冬木のほうへ椅子をすり寄せた。

恒藤はばかげた囈語はもう聞いておれんというような様子を露骨に示しながら、椅子を立ち上がって室内を歩きはじめた。とはいうものの耳だけは兎のように伸ばして、一語も聞き洩らさじと冬木の言葉に注意していたことは無論である。

「だいいち、死体の発見された場所はだいたい五階の窓の下ではありますが、あまりにあのビルディングの軒に接近し過ぎています。ほとんど軒の石材とすれすれのところに、あの死体は横たわっていたのです。もし五階の窓からあの死体を投げ出したとしますと、あの建物には二階と一階との間に突出部がありますから、それをよけて、その向こうへ投げ飛ばさなければなりません。もし窓からすぐ垂直に下に落とせば、突出部に触れて外方へ撥ね飛ばされるに相違ありません。そうしますと死体は、いずれにしても少なくも歩道の中央部へ落ちていなければならぬ理屈です。もっとも落ちてからあそこへ転がっていくじゃないかとおっしゃるかもしれませんが、あの高さの建物なら二階から落ちてもたいして転がるようなことはありません。いわんや五階から落ちたとすれば、牡丹餅を床の上へ落としたようにぺちゃんこにつぶれてしまうだろうと思います。少なくも水平な敷石の上を、落ちてから一間近くも転がるようなことは絶対に不可能です」

「なるほど」

署長は少なからぬ興味を面に現した。

主任もわれしらず椅子に腰を下ろして謹聴しはじめた。

冬木刑事は続けて語りだした。

「それからわたしは、死体の発見された場所の敷石道をよく調べてみましたが、高いところから落ちたような形跡はありませんでした。血はついていましたが、静かに流れた血の痕です。五階から落ちたとすれば、肉片や毛髪などが石の上にへばりついていなければならぬはずですが、そういうものは少しも見つかりませんでした。

それから、さっき拝見した死体解剖の検案書を見ますと、なるほど打撲傷以外に傷はありませんから、打撲によって殺されたものに相違ありませんが、打撲傷は必ずしも五階の窓から突き落とさなければできないわけではありません。それに、この場合には、五階から突き落とされたと仮定しては説明のできない点が無数にあります。だいいち、あの死体の打撲傷は後頭部と肩胛骨と二カ所しかありません。しかも、後頭部の打撲傷には後ろから力が加えられており、肩胛骨の打撲傷のほうは上から力が加えられています。もし墜落したための打撲傷なら、同じ方面から力が加えられているはずじゃありませんか?」

「ふん。よく分からんが、聞いてみればそのようだね」

と、署長は大きくうなずいた。

「それに、頭部はだいぶひどくやられていますが四肢の関節は完全ですし、そのほかのどの部分にも強い衝撃を受けた痕はありません。衣類なども大して汚れてもいないのです。もし五階から墜落したのなら、手足の関節などはめちゃめちゃになっていたはずだとわたしは思いますがどうでしょう」

署長も主任も、いまでは完全に冬木刑事の明快な論理に征服されたもののごとく、ただ黙って傾聴しているよりほかはなかった。

Chapter 3 of 5
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