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ウィリアム・ウィルスン
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ウィリアム・ウィルスン
ポーエドガー・アラン
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译文 Pagera AI
原文 Public Domain
Chapter 5 of 5

5

ローマで、一八――年の謝肉祭のあいだ、私はナポリの公爵ディ・ブロリオの邸宅における仮面舞踏会に出席した。私はその日いつもよりももっとひどく酒を過していた。そしていま、こみ合った室内の息づまるような空気は、私を我慢のできないほどいらいらさせた。それに、ごった返している人込みのあいだを押し分けてゆく厄介さも、気持をいらだたせるのにかなり油を注いだ。というのは、私は、かの年をとって耄碌しているディ・ブロリオの、若い、浮気な、美しい細君をしきりに捜して(どんな卑しい動機でということは言わないことにするが)いたのだから。彼女は、ひどく不真面目な大胆さで、自分の着ける仮装衣装の秘密を前もって私に知らせてくれていたのだ。そしていまこそ、彼女の姿をちらりと認めたので、私は彼女のところへ行こうとして急いですすんだ。――と、その刹那、自分の肩に軽く手が触れるのが感ぜられ、あのいつも忘れたことのない、低い、いまいましいささやきが耳のなかに聞えたのだった。

まったく怒り狂って、私はすぐに自分をそうして邪魔した男の方へ振り向き、荒々しくそいつの襟首をひっつかんだ。彼は、私の予期したとおり、私のとまったく同じ衣装を身につけていた。剣をつるす深紅色の帯を腰のまわりに巻いた、青天鵞絨のスペイン風の外套を纏っているのだ。黒い絹の仮面が彼の顔をすっかり蔽いかくしていた。

「ごろつきめ!」と激怒のためにしゃがれた声で私は言った。私の口から出る一語一語は、自分の怒りをさらに焚きつける新たな薪のようであった。「ごろつきめ! かたりめ! いまいましい悪党め! ――己はきさまに――きさまに死ぬまでもつきまとわれてはいないぞ! ついて来い! でなけりゃこの場で突き刺してやるぞ!」――そして私は、抵抗のできないように彼を一緒にひきずりながら、舞踏室から隣の小さな控の間へと跳び込んだ。

そこへ入ると、はげしく彼を突きはなした。彼が壁につき当ってよろめいているあいだに、私は呪咀の言葉とともに扉をしめて、彼に剣を抜けと命じた。彼はほんのちょっとのあいだ躊躇したが、やがて、かすかな溜息をつきながら、黙って剣を抜き、防御の身がまえをした。

仕合はごく短かった。私はあらゆる種類のはげしい興奮のために狂気のようになっていて、片腕に百千人の力がこもっているのを感じた。数秒のうちに怪力を揮って彼を羽目板のところへ押しつけ、こうして彼を自分の掌中に握ると、残忍凶猛に、幾度も幾度も彼の胸へ自分の剣を突き立てた。

その瞬間、誰かが扉の挿錠をがちゃがちゃさせた。私は急いで誰でも外から入って来られないようにして、それからまたすぐその瀕死の敵手のところへとひき返した。しかし、そのとき眼前にあらわれた光景を見たとき自分をおそったあの驚愕、あの恐怖を、どんな人間の言葉が十分にあらわすことができようか? 私が眼を離していたそのちょっとのまに、室の上手の、つまり遠いほうの端の配置に、見たところ、重大な変化が起きていたのだ。大きな鏡が――自分の心が混乱していたので私には最初はそう思われたのだが――いまや前になにもなかったところに立っていたのだ。そして、私が極度の恐怖を感じながらそれに近づいてゆくと、私自身の姿が、だが真っ蒼な、血にまみれた顔をして、力のないよろよろした足どりで私の方へすすんで来た。

そんなふうに見えた。が、そうではなかった。それは私の敵手であった、――それは断末魔の苦悶をしながらそのとき私の前に立ったウィルスンであった。彼の仮面と外套とは床の上に、彼の投げ棄てたところに、落ちていた。彼の衣服中の糸一本も――彼の顔のあらゆる特徴のある奇妙な容貌のなかの線一つも、まったくそのままそっくり、私自身のものでないものはなかった!

それはウィルスンであった。けれども彼はもうささやきでしゃべりはしなかった。そして私は、彼が次のように言っているあいだ、自分がしゃべっているのだと思うことができたくらいであった。――

「お前は勝ったのだ。己は降参する。だが、これからさきは、お前も死んだのだ、――この世にたいして、天国にたいして、また希望にたいして死んだんだぞ! 己のなかにお前は生きていたのだ。――そして、己の死で、お前がどんなにまったく自分を殺してしまったかということを、お前自身のものであるこの姿でよく見ろ」

(1)William Chamberlayne(一六一九―七九)――イギリスの詩人、劇作家。(2)Elah-Gabalus(二〇五―二二二)――本名 Varius Avitus Bassianus. ローマの皇帝。その放埒な乱行をもって知られている。(3)the dim valley ――旧約聖書詩篇第二十三篇第四節に出ている「死のかげの谷」のこと。(4)leading-strings ――歩き初めの子供につかまらせて歩き慣らせる紐。(5)ferule ――学校で、懲罰として児童を、とくにその掌を、打つためにつくられた木の箆。(6)「強い厳しい刑罰」という意味のフランス語であるが、昔、普通の審問に答弁しない罪人に科したものであって、罪人を俯伏せに臥させてその上に重いものを載せ、白状しなければ死ぬまでそうしておいたという残酷な刑罰である。(7)ポーの生年月日は今日では一八〇九年一月十九日であることが確かめられているが、作者自身は自己の誕生日を一八一一年とした手記をグリズウォルドに与え、のちにさらに一八一三年としたのである。なお、この物語の初めの追憶的の部分が作者の幼時に学んだイギリスのストーク・ニューイントンのブランスビイ博士の学校のことなどを描いたものであることは有名であるが、全編を「半自伝的」の作と考えるのは当を得たものではない。(8)これはもちろん、ブランスビイ博士の学校寝室などと違って、学生の寄宿舎は学校の本館とは別の棟になっていて、一つ一つの室に小さな玄関の間がついているからである。(9)Herodes Atticus(一〇四ころ―一八〇ころ)――本名 Tiberius Claudius. ギリシャのアテネの市民であった富豪。修辞学者であったが、その著作は今日残っていない。彼の祖父の領地は反逆のために没収されたが、その後彼の父の家で莫大な額の金が発見され、それを所有することを時の皇帝に許されてたちまちにして大財産家となり、彼の結婚によってもますますその富が増したという。彼はその私財をもって方々に劇場や音楽堂を建てたり、競技場や競走路をつくったり水道や温浴場をこさえたり、ギリシャ各地の滅びた都市を復旧再興させたり、実にさまざまの驚くべき大規模な公益事業をしているが、もってその富のいかに巨大であったかが察せられる。(10)cart ――三十二枚の札で二人だけでやる骨牌戯。(11)arrondes ――正しくはフランス語で arrondies と書き(もっとも英語化されて arondie, arondy などとも書かれるようである)、「円くされた」、「円い」という意味(邦語では「マル札」とでも訳すべきか)。すぐあとに本文で説明されているように、札の縁が少し円味を帯びているからである。

●図書カード

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