Chapter 1 of 2

第一章

グライドが相棒をしげしげ眺めた。あけすけにそうできる単純な理由は、相手が盲人の為だ。とはいえ、切羽詰まってガラクタに手を出したわけじゃないし、自分なりにはっきりと儲けが見えたからだ。

相手のフランク・チェイスモアは、かつて美男子だったに違いないが、後年大事故に会って、乾燥クルミみたいな傷跡が残り、視力も失っていた。

グライドが慎重に言った。

「君の発明品を購入しようと思うんだが」

相棒のチェイスモアは苦笑い。

文字通り、ニューヨークの貧民街で、この変人技術屋をグライドが拾った。グライドの計画は荒唐無稽だったが、地下鉱脈を見る目は敏だった。

技術屋のチェイスモアが答えた。

「ありがとう。発明品を町から町へ米国中売り歩いたのだが、皆笑ったよ。いい機械だがね。私のドリルとモータがあれば二週間で地球すら掘り抜ける。経費は、実質ゼロだ。あのニトログリセリンが爆発さえしなければ、私は成功者になっていただろう。今は目が見えないから子供並だ。おそらく救貧院へ行く羽目になろう。しかしだ、眼が見えないからこそ、秘めた能力で、世間を驚かせる。ただし馬鹿者どもが聞いてくれればだが……」

チェイスモアが怒りの余り、体を震わせた。グライドはよく分かった。奴はそれなりに天才じゃないか。

「その馬鹿が聞いておる。なんで君と守護神をこんな寂しい荒れ地へ連れて来たか、分かるか」

「さあな。たぶん親切心からだろう。むかし本で読んだが、そんな奇行をする輩がいる」

「そんなことはしない。ここに連れてきたのはこっそり発明品を試験するためだ。君の言うとおりの性能が出れば、二万ドル払おう。もちろん、機械の借り賃だ」

技術屋チェイスモアが感謝して言うことに、もしあんたがこの機械で掘削すれば、同等機械で一メートル掘るよりずっと短時間で、大量の仕事を行うことができる。

「益々けっこうだ。手短に説明してくれないか」

「簡単だよ。なにはさておきモータが新式だ。薬箱の大きさで一馬力出る。馬鹿どもは馬力が出ないという。失敗したとき、うぬぼれ屋はいつも不可能だという。見たことがあるだろう、群衆がでかい石壁を押し倒しても、誰も怪我しない」

「要点を言ってくれ」

とグライドが冷静に言った。

「すまん。モータはだいたいポケット程度だ。これで花崗岩を一時間当たり十メートル掘り進み、直径十五センチの穴をあけられる。ドリルの外側には金属製の自在管があり、隙間にライノタイプ溶融物を流し込んで、固めることができる。どうだい。一時間で、直径十五センチの頑丈な管が十メートルだよ」

グライドの眼がギラリ。能書きを聞いたのはこれが初めてじゃない。一日あれば、試掘して評価できる。

こうして一週間足らずで両人が行き着いた所は、ペンシルバニアで一番寂しい荒野の掘立小屋だった。近くに町はなく、あるのは木造小屋群と、長い倉庫が数棟、すすけた長い煙突が二本だけ。世界最大の養岩油田の二キロ手前だった。

この世界最大油田・養岩油田の地所はわずか二キロ四方だ。養岩油田の外側に無鉄砲な山師が群がり、石油を掘削したが破産した。立坑や採掘場に何千ドルもつぎ込んだ。養岩川がとうとうと流れているが、石油は一滴も出なかった。

「目的は石油かい」

と技術屋チェイスモアが訊いた。

「なんでわかったんだ」

「目は見えないが、鼻は効く。石油の臭いがする。でも俺の知ったこっちゃない。金をもらえば何も言わん」

「ともかく言い当てた。ここに石油はあるが、深く掘る必要がある。だから君のドリルが必要だ。この土地を立坑ごと買った。機械の使い方を教えてくれれば、あとは寝るなり、存分に夢でも見てくれ」

ある思惑があって、世界最大油田・養岩油田の近場なんておくびにも出さなかった。破廉恥きわまる計画を行うためには、相棒の眼が見えないことが必須、かつ好都合だった。

運が向いてきた。いつも幸運が舞い込むのは資金があり、体力があり、労をいとわぬ男のようだ。

「操作は簡単だ。三日もあれば私と同じぐらい上達する。もう成功が見える……」

チェイスモアの声が次第に消えた。うっすら夢見顔になった。相棒が瞑想にふけったから、グライドも一人になったほうがいい。煙草に火をつけ、外へ出た。

見渡す限り平原だ。生えてるものは雑草しかない。あちこちに積み上げられた土の山は運のない山師たちのむなしい仕業だ。この為、ぽっかり開いた立坑は夕暮れになると、よそ者には危険だった。

グライドが歩いて行った先に、壊れた柵があり、世界最大油田・養岩油田を囲っている。立ち止まった所は巨大な油井やぐらから、四百メートル足らずの場所だった。ここから急に低くなって、パカッと開いた穴の中心に廃棄された立坑があった。深さは六十メートルぐらいだろう。

荷揚げ用のウィンチと鉄枠はまだ無傷だ。だがその上に掲げられた看板『石油保証組合』はボロボロ。この油井を、抜け目のないグライドが九十ドルで現金購入した。

足場を伝って、立坑の底に降りた。かなり広くて、乾いている。今はランタンとマッチ箱だけしかない。そのランタンを照らして、鉱脈を調べた。どうやら、大いに満足したようだ。

「四百メートルか。一時間に十メートル掘れば、まあ一日で百メートル進む。四日もあれば充分だ。あの飲んだくれの相棒ですら、やるべきことが分かった。実際、こんな数式なら子供でも分かる。登りでもなく降りるでもなく、水平に掘るだけだ。けったいな経緯儀と三週間も格闘したのも、無駄じゃなかった。ツキがあれば、ここから何百万ドルも稼げる」

グライドが再び地上へ上がった。そのとき、誰かいることに気付いた。あごの張った我の強そうな大男が小馬鹿にしたように眺めている。

「こんばんは」

とグライドがおずおず言った。

「よお、よそ者か。ぶしつけだが、どういうつもりだ」

グライドが釈明した。

「ほかの人は失敗したが私は成功する」

すると相手が笑って訊いた。

「俺が誰だか知ってるか」

グライドが落ち着いて答えた。

「よく知ってますよ。石油王のウォルター・クレードルストンさんでしょう、一億ドル長者の。それで満足しなきゃ。一生かかって持てない人だっているのだから。あなたは運のいい人だ」

「お前は新顔だな。そこに石油は出ないぞ。俺の大油田が全支流を水ぶくれのように吸引する。昔、油が二、三日出たけど、それっきりで枯れた。その量ときたら」

「量は要りません。少量で充分です。天然物ほどいいのです。あなたの会社と張り合おうなんて気はありません。ある発明をしましてね、その為に自前の油井が欲しいだけですよ。まだまだ石油は謎だらけです」

「俺は知ってるぞ」

とクレードルストンはそっけない。

「当然でしょう。金持ちはみんな独りよがりです。私の油は明かり用じゃなく、治療用ですよ」

「ふん、餓鬼でもワセリン軟膏ぐらい知ってら」

「当たり。でもワセリンにクライソリンを入れたら、ワセリンは駆逐されます。クライソリンは未来の治療薬です。あなた、どこか傷はありませんか」

クレードルストンが袖をまくって、醜い腕の傷を見せた。

「機械にちょっと挟まれた。真っ黒だろ。お前のクライソリンのいい口あけだな」

返事代わりに、グライドがポケットから小瓶を取り出した。中に薄青緑色のゼリー状物質が入っている。指先につけて、傷ついた腕にちょっぴり塗った。

「袖を下ろして、二、三分放置しなさい。私がここに金を捨てに来たとでもお考えですか」

「その通り」

「全く見当違いですよ。だって捨てる金がないもの。賭けてもかまいませんが、欲しいものは手に入れますから。さあ、袖をまくってもらえませんか」

クレードルストンが袖をまくった。驚いたことに黒あざの痕跡がない。傷は残っているが、あざが消えていた。

「すごいな。効能を知りたい」

「クライソリンですよ。石油ゼリーに加えました。どうですか」

「キミの小瓶には大金が潜んでいる。どうだいひとつ……」

「億万長者には、はした金ですよ、ハハハ。あなたなら買い占めて、缶詰にして売りかねません。私のは売り物じゃありませんよ」

グライドは、ひるまなかった。口笛を吹きながら小屋に戻った。

「目くらまししてやった。今は何も疑っちゃないだろう。大きなへまをしなければ、奴はやがてがらっと態度を変える。天は用心するものを助けるだ」

Chapter 1 of 2