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カラブウ内親王殿下
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カラブウ内親王殿下
牧逸馬
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译文 Pagera AI
原文 Public Domain
Chapter 7 of 9

7

カラブウとは何者か?

彼女は何処から来たか?

この神秘を解くべく、センセイションはすでに全国的なものになりつつある。「ノウル園のカラブウ」から「アルモンズベリイ市のカラブウ」、「グロセスタシャア州のカラブウ」それから「英吉利のカラブウ」と――この瞬間の好奇の焦点は一カラブウに集中されている。ブリストル市庁と警察が主動して、英吉利じゅうから欧羅巴大陸の沿岸にわたって身許調査の手懸りが求められた。ブリストルの港では、だれか東洋へ旅行した経験があって「カラブウ語」を解する者はないかと血眼で捜索した。印度へ行ったことのあるもの、在支那の英商館に勤めていたという者、そのほか二、三人名乗り出てカラブウの前に立ったが、一たまりもない。双方頓珍漢をきわめて一人として、「カラブウ語」の片言隻語をすら解し得ないのだ。全く、すこし大きく言えば、「カラブウ語」は英吉利全体の「時の問題」にまでなっていた。

バス町に、ウイルキンスン博士―― Dr. Wilkinson ――という学究肌のお医者さんがある。

このウイルキンスン博士がウオロウル氏夫妻の友達で、夫妻と同じに、いや、夫妻以上に、天涯孤独のカラブウに同情を寄せて、その国籍、放浪に出た事情、それにいわゆるカラブウ語に学者的立場から大いに興味を持っている。博士は、まず文字から審べて行こうと、やっとカラブウに二通の手紙を書かしてバスとブリストルと二つの大学に送って判読を乞うたが、まるで鍵合のない暗合文のようなもので何うしても読めないのだ。ただ線や点のぐあいが、支那の漢字に似ているようでもあるという心細い限りである。そこで今度は、ウイルキンスン博士がひとりでカラブウに会って、一つ二つと数を算えさせてみた。カラブウ語で二を「デュウス」duce ――三を「トルア」―― tura ――五を「ゼニイ」―― zenne ――と言う。博士はちょっと不思議に思った。仏蘭西語の二は「デュ」deux、三は「トロア」trois、五は「サンク」cinq だ。何となく言語学的に相通ずるものがありうるような気がするのだ。

葡萄牙人マニュエル・アイネッソ―― Manuel Eynesso ――は馬来諸島の旅から帰ったばかりで、ブリストル港とバス町を往ったり来たり、半々に暮らしている。だから、カラブウの噂は初めから聞いていたが、通訳に出たいと思っても伝手がなくて出られなかったというのだ。それが今度、バス町の知人によってウイルキンスン博士に紹介された。博士を通じてカラブウに会う。

こうして神秘「カラブウ語」は他愛なく解かれたのである。

マニュエル・アイネッソは、葡萄牙人だけに当時流行の探険的航海業者だ。長く馬来小群島にいたといって、近東人風の陽に焼けた皮膚をしている。いかにも冒険家らしい風体で、ウイルキンスン博士に伴われてカラブウを訪問する。

会って一言二こと交すと直ぐ、アイネッソは博士をかえり見て莞爾とした。

「こいつぁ無理ですよ。これはちょっと誰にも判る筈はありません」得意満面で、葡萄牙人が言うのである。「この女の話す言葉は、単独の国語ではないんです。色んな国語が雑然と集まって、特殊の訛りを帯びている方言ですよ。ははははは、これにはみんな手を焼いたでしょう。いや、さぞお困りでしたろう。お察しします。東印度諸島とスマトラの西海岸でだけ使っている言葉なんです」

そして、あれほど誰も歯が立たなかった「カラブウ語」を、マニュエル・アイネッソは、本人が話すそばから逐語的に訳して聞かせたのだ。ノウル園の大広間である。主人ウオロウル氏夫妻ははじめからの関係者だというのでホルトン夫婦、ブリストル市長、警察官、アルモンズベリイ教区牧師ガイ・スリイス長老、ウイルキンスン博士、その他言語学者二、三、ノウル園の召使い近処の人々などが立ち会って、呼吸を凝らして二人を見つめていると、カラブウとアイネッソは、部屋の中央に人々に取りまかれて慣れなれしそうに談笑している。久しぶりに言葉の通じる話し相手があらわれたのだ。まるで長い間の無言の行が解かれたように感じたのだろう。カラブウは別人のように生気を呈して、頬をうつくしく紅潮させてしきりに饒舌り込んでいる。アイネッソはにこにこうなずきながら、熱心に聞き入っているのだ。話す。訊く。答える。何か可笑しいことがあるとみえて、両人腹を抱えて笑い崩れる。自由自在な会話ぶりだ。立会いの人々は、一刻も早くカラブウの話しが英語になってアイネッソの口を出て来るのを待っている。

Chapter 7 of 9
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