Chapter 1 of 82
序
これまで発行せられたいろいろの雑誌に私の書いた小品文はそう鮮くなかった。今回桜井書店主人の需めを快諾してその中の興趣ありと濫りに自分勝手に認めるもの三十七題を択んで、ここにこれをこの一書に纏め読書界に送った。
読書界の人々が果してこれを歓迎して下さるか、あるいは嫌厭せられるか、将亦風馬牛に遇せらるるか、いわゆる知らぬは亭主ばかりでそれは私の暁とり得ん所だが、私は今この書を世に公にするからには成るべく一般に読んで頂きたいと悃願する。書肆にあってもこの時局下出版困難の際に拘わらず、勇を鼓して費用構わず発行したからには、算盤が採れんでは困るであろう、イヤ大に売れんと商売にならんと泣き顔になるであろうと察する。
それほどに言うなら中の記事はどうか、もしも悪るかりゃ売れんは当り前、また読んでくれんのも当前だ。が、しかしこの書の記事には相当に啓蒙的啓発的の事実を含めてあるので、幸に読んで下されし人々は、読後決して得る所は絶えて無かったとこぼしはしまいと信ずる。
文章は多くは誰れにも読み易く解り易く書いてあるが、しかしその文中の事実には、大きく言えば、前人未発の新説新考を含んでいると自讃している。ただし中にはそんなのでもない文章も交っているから全篇が皆有用の文字だとは私は決して言わない。つまり玉石の混淆した一書であると白状するのが自分の良心に恥じぬ所であろう。
結網学人牧野富太郎 のべる