Chapter 1 of 1

Chapter 1

何百年のその間

村の境に立ってゐる

一本松の松の影

今はだん/\枯れて来て

「かうまではかなく成ったか」と

空をあふいで一人言

「この私が生れたは

丁度今からかぞへたら

六百年の其の昔

あちらの村の庄屋さん

こゝへ私を植えたので

何百年のその間

こゝにかうして居たのだが

始は小さい松の影

だん/\大きく成って来て

二つの村の人々が

一日たんぼで働いた

つかれをいやす松の影

今は仲好し友達が

二人三人つれ立って

向の山や近の浜

遠足に行く行き帰り

必ずこゝで休んで

こう言ったなら私も

少しはお役に立ちませう

しかし今では意地悪な

きつつき鳥につゝつかれ

松はだん/\枯れて来て

もう早や死んで終ひそう

これまでたび/\こゝへ来て

休んで行った村の人

少しも私に取り合はぬ

これから私はどうなるか」

言って終って吐いきつく

ほんとにあはれな松の影

大正十一年七月十六日綴

●図書カード

Chapter 1 of 1