三
急に廊下の方がさうざうしくなつたので、清三が扉口をのぞいて見ると、この母子ホームの三四年の子供たち六七人が、手に手に青い木や草の根つこのあるのをさげて、三階の上の、屋上の階段へ登つて行くところでした。
「それ、なあに。」
清三がたづねると、子供たちは、
「あのね、屋上へ植物園を作つてるの。清ちやんも来て手伝つてよ。」
と答へて、行つてしまひました。
「行つて見ようね。あそこ涼しいのよ。」
二十五番のをばさんがさそふので、清三も睦子も自分の部屋に鍵をかけると、風通しのいい屋上へのぼつて行きました。
そこは洗濯場と物干場とになつてゐますが、あちらこちらに大きな植木の鉢がすゑてあつて、まん中の広い所ではキヤツチボールも出来ます。電車通も見えれば、前の川筋から、川向かふの方まで眺められます。
子供たちは、屋上のあちらこちらに捨ててある古い草花鉢を拾ひ集めて、洗濯場の水を出しながら、抜いて来た草や苗木のやうな物を、たんねんに一鉢づつ植ゑてゐます。あざみ、おほばこ、すすき、野菊などもあります。
「どこにあつたの。をばさんも、つれてつてもらふとよかつたわね。」
そこへ来たをばさんが、さういふと、
「だめだい、をばさんなんか。そんな、お勤めを休んでるやうな弱虫ぢや。」
と、一人の子が答へました。
一鉢づつ植終ると、子供たちは楽しさうにかかへて物干場の下の、大きな植木の鉢のまはりへ持つて行つてならべます。そこには、もう幾日か前から取つて来て植ゑたいろいろの木や草の鉢が、三十幾つならんでゐて、大きな植木の枝には、「こども植物園・入場無料」と書いた札が下げてありました。
「まあ、すてきねえ。」
をばさんがさういつた時、下から三四人の少し大きな男の子がかけのぼつて来て、すぐボール投げを始めました。
「をばさんも仲間に入れてね。」
をばさんはボールを横取りしながら、笑つていひました。けれど清三が、
「もう五時だね、をばさん。ぼく、御飯をたかなくちや。」
といふと、をばさんはすぐやめました。
「ぢや、をばさんも一しよに行くわ。」
「わたしも。」
睦子がさういふと、ボールを投合つてゐた男の子たちも、
「ぼくも。」
「ぼくも。」
と、みんな御飯たきに、一階の共同炊事場へおりて行きました。
あとには小さい子供たちが、赤い西日を浴びながら、「こども植物園」をせつせと造つてゐました。
●図書カード