
梅崎春生 · Japanese
No translation yet. Request one to move it up the queue.
梅崎春生 · Japanese
First paragraph preview
Original (Japanese)
その夜僕も酔っていたが、あの男も酔っていたと思う。 僕は省線電車に乗っていた。寒くて仕方がなかったところから見れば、酔いも幾分醒めかかっていたに違いない。窓硝子の破れから寒風が襟もとに痛く吹き入る。外套を着ていないから僕の頸はむきだしなのだ。座席の後板に背筋を着け、僕は両手をすくめて膝にはさみ眼をしっかり閉じていた。そして電車が止ったり動き出したりするのを意識の遠くでぼんやり数えていた。突然隣の臂が僕の脇腹を押して来たのだ。 「何を小刻みに動いているんだ」 とその声が言った。幅の広い錆びたような声である。それと一緒にぷんと酒のにおいがしたように思う。 「ふるえているのだ」と僕は眼を閉じたまま言い返した。「寒いから止むを得ずふるえているんだ。それが悪いかね」 それから暫く黙っていた。風が顔の側面にも当るので耳の穴の奥が冷たく痒い。僕の腕の漠然たる感触では隣の男は柔かい毛の外套を着ているらしいが、僕は眼をつむっているのではっきりは判らない。暖を取るために僕は身体をその方にすり寄せた。すると又声がした。 「お前は外套を持たんのか」 「売って酒手にかえたよ」 「だから酔ってるんだな。何を飲んだ

Translation status
WaitingLog in to request a translation.
Frequently asked questions
Yes — completely free. This book is in the public domain, so Pagera offers the full text without payment or account requirement. Pagera is funded by advertising.
Free to read
Start reading immediately — no signup required. Create a free account for more books and features.