
菊池寛 · Japanese
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菊池寛 · Japanese
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Original (Japanese)
今でこそ余程薄れたやうですが、昔は「芥川の脣」と云へば僕達の間では一寸評判のものでした。久米などはよく「芥川の脣」を噂した事がありました。芥川は御承知の通り色白の方であるのに、其の脣と云ふのが真紅で稍紫色を帯び非常に印象的なものでした、美女の脣のやうに妖艶で、美しいけれども少し凄艶な気のするものでした。昔の芥川を想ひ出す毎に必ず彼の脣を思ひ出します。此頃の「芥川の脣」はどんな色をして居るか、つい注意して見た事もありません。 脣の真紅であつた頃の芥川は極くおとなしい、何処かにツンと取済ました所のある優等生でした。そして丸善あたりから新しい文学書類を頻々と買込む事に於て僕達を羨ましがらせたものでした。 が、創作するやうな様子もなく、今程頭のよい男だとも思へませんでした。僕やKやMなどがワイ/\騒いだり欠席の競争をやつて居る間にも、芥川は真面目に学校へ出て先生達の信用も頗る厚い方でした。が、その頃の芥川は別段エライと思つて居ませんでした。芥川の真価を知るやうになつたのは一緒に雑誌をやり始めてからの事です。 芥川の癖と云へば、何んな時に逢つても必ず左の手に何かの本を持つて居る事です。アナトール

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