
国枝史郎 · Japanese
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国枝史郎 · Japanese
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Original (Japanese)
天明五年十一月、三日の夜の深更であった。宵の間にかくれた月の後、空には星ばかりが繁くまばたき、冬の寒さをいや増しに思わせ、遠くで吠え立てる家護りの犬の、声さえ顫えて聞こえなされた。 大江戸の町々は寝静まり、掛け行燈には火影さえなく、夜を警しめる番太郎の、拍子木の音ばかりが寂寥の度を、で、さらに加えていた。 まして隅田の堤あたりは、動くものといえば風に吹かれる、葉の散りつくした桜の木々の、細い梢か枝ばかりで、 春雨や鼠の嘗める隅田川 その野鼠さえ蠢いてはいず、まして人影など見られなかった。 と、厩橋の方角から、その寂しい隅田堤の方へ、一挺の駕籠を取り巻いて、数人のものが歩いて来た。 二人の武士が駕籠の前に、二人の武士が駕籠の背後に、一人の武士が駕籠の脇、引き手の側に引き添って、しとしとと歩いて来るのであった。 枕橋の渡しの辺を、一町あまり歩いて来た時、それまで堤の耕地へ向いた斜面へ、身を伏せて隠れていたのでもあろう、黒の衣裳に黒の羽織、袴なしの着流し姿、黒頭巾で深く顔を包んだ、お誂え通りの一人の武士が、しかし身体に得もいわれない、品と威との備わった武士が、おもむろに現われ斜面を上り、懐手

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