野村胡堂
野村胡堂 · Japanese
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野村胡堂 · Japanese
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Original (Japanese)
「ああ退屈だ。こう世間が無事ではやり切れないなア」 文学士碧海賛平は、鼻眼鏡をゆすり上げながら、女の子のように気取った欠伸をいたしました。 「全くだ、何んか斯う驚天動地の面白い事件が無いものかネ」 百舌の巣のような乱髪を、無造作に指で掻き上げるのは、朝山袈裟雄というあまり上手でない絵描きです。 十五六人集った倶楽部の会員は、いずれも金と時間の使い途に困ると言った人達ばかり、煙草を輪に吹くもの、好きな飲物を舐めるもの、乱雑不統一の限りを尽して、雑談に耽って居りますが、腹の底から退屈し切って居ることだけは、倶楽部員全体に通じた心持でした。 神保町のとあるカフェーの裏二階、夜分だけ定連を借り切って、何時の間にやら出来たのが、この有名なる「無名倶楽部」です。会長というわけではありませんが、年配、地位、名望を推されて、倶楽部の音頭を取って居るのは、子爵玉置道高氏、正面の安楽椅子にもたれて、先刻から立て続けに葉巻を吸って居るのがその人です。 やや額の禿げ上った、中年輩の好男子で、聊かうで玉子を剥いて、目鼻を描いたといった、冷たい感じはありますが、さすがに門閥だけあって、何んとなく上品な風采をして居
野村胡堂
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