Chapter 5 of 6
五
(封書――宛名 神奈川県足柄上郡関本村、瀬川岩太郎)
御無沙汰いたしました。お変りはありませんか。小生元気です。先日こちらの友達に御村の景色の話をいたしましたところ、この初夏の間に是非とも訪れたいと云ひますので、近々三四の友を誘つて御邪魔にあがりたいと思つて居りますが、差支へありませんか、お尋ねに及びました。もう蛍の期節は済んだでございませうか。御出京の節は前もつてお知らせ下さるやうお願ひいたします。こちらの酒場を御案内いたしたく存じて居ります。近頃都の数々のバーやタバンの発達は名状しがたき全勢振りにて、吾等にはそゞろ寒心の感さへ覚ゆるほどでございます。
長老をはじめ、青年団員諸兄へよろしくお伝へ下さい。
匆々牧野生 瀬川村長 机下