槙村浩
槙村浩 · Japanese
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槙村浩 · Japanese
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Original (Japanese)
「ここは穴だ黒くて臭い」これは中野重治の生涯のスローガンだった彼は帝国ホテルのまん中で立停り鼻をいじりながらこう呟いたそれから機関車の後姿を見送ってうや/\しく敬礼しながらだがこの偉大な「大男」の煤臭いにおいにへきえきしてまたこう呟いた列車が雨のふる品川駅につくと彼は前衛の乗客を見送りながら大きく息をついて「さようなら」と言った中野はいつも「さようなら」と言いたがる
だが中野は党員である彼は投獄されると、はじめていつでも「いよいよ今日から」だとゆうそして多かれ少なかれがんばらない彼のグループの中で彼は最後までがんばることで有名である
中野は牢獄であらためてハイネを読みハイネはやはり自分よりまづいなと思うだが中野がハイネに対する長所と短所は彼が彼の美くしい同志である妻に対してハイネのような恋愛詩集を恐らく一生かかっても書けない所にある彼は酒をのみさながら党員であるかのように党員をサボタージュしているそしておっかなびっくり彼の妻に接吻しながら「おれは今夜お前の寝息をきいてやる」とゆう
散文は抑揚と句読点によって韻文に転化されるこれが森山啓の詩論だった彼の情熱的な「南葛の労働者」を人民たちは一字一句を変更することなく浪花節に引きのばして歌うことが出来ただがあのころの集会の思い出に今なお労働者は眉をひそめて彼をなつかしがる
「隅田川いざ事問わん森山啓
過ぎし人望ありやなしやと」
何といっても「コンミューンの戦士」と「犠牲者の遺児に」は彼の傑作だった階級的な仕事の中で個人的な享楽とものを書くことより牢獄を選ばねばならぬときはふしぎと思い出したように、いつでもこの詩が愛誦されたときだった
社会主義リアリズムをはな/″\しく引っさげて打って出た時は皮肉にも彼が実にリアルに沈滞した時だっただが彼の沈滞は一九〇五年のベードヌイ以上ではないさすらい人めいた述懐がちらつこうと常に中国人民に詩と情熱をそそいでいる森山でなければならぬ、「北平の風の中で」のように
「勝つも負けるも力と力何でやめられよかこの戦さ」これがかの勇敢なコスモニストの克服者だった上野壮夫の歎声だった彼がうっかり詩のラインに引き込んだ「友よゆるせ」の一句は敗北したインテリゲンチャたちの時代の象徴語となった遠地輝武は「音のない群像」と彼の詩を評した彼は人民を骨の髄まで煽動する人民が彼の死んだシルエットである間は彼は「飢餓皇帝」のように、大仰にマントをおっひろげ大地に耳をすまして、楽屋に合図をしながらぼそ/\呟く「そーらまた、飢えた厄介者めが立上って来るぞ!」
彼は風のように来、風のように去った伊藤信吉は飛翔のできる限り、世界の固有名詞の間を飛翔したそれは彼の「風の歌」だったウスリのパルチザンを讃え中国の白テロにいち早く抗議した彼もとう/\風を引いた牢獄の木の扉は、やさしく彼の肩をたゝいて「お休み」と言った
伊藤の故郷は「寒流」の流れるうすらさむい里だ彼は荒れすさんだ心の大陸の廃墟へ帰って行った敗北の竪琴は彼のがらんどうな胸の中でぶーんぶーんと横っちょに揺れながら「サヴェートになったら帰っておいで」と彼に告げた
同志工屋戦二―――この若い労働者はわたしらに、図式化されぬ戦列の行進曲を教えた
むかし わたしらは歌ったそれは生産の轟音と××の燃焼者として張りつめた重苦しい思想の激潮―――どよめく奔流の疾走者さゞめく周期風に、寛衣をはためかせた檣頭手としてだった
いまわたしらは静かな組織の微風に胸をおしつけ瞬間の静寂に、散らされた嵐を呼ぼうとするそして全線の中で波立つ水平をめぐる気負った清新さと共に労働の鼓動をうたう青年舵手を見た
それは没落の腐り水を洗う新ネフスキー街の掃除夫牢獄の暗鬱を吹き払うさわやかな秋の青嵐―――わたしらはこの日本一のみず/″\しさをもつ詩人に、心からの挨拶を送るさゝやかな、「声なき仮面」を発掘しえぬ若さはまた退却なき共産青年の春であるだろう
●図書カード
槙村浩
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