薄田泣菫
薄田泣菫 · Japanese
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薄田泣菫 · Japanese
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Original (Japanese)
久米の仙人 薄田泣菫 私がじめじめした雜木の下路を通りながら、久米寺の境内へ入つて來たのは、午後の四時頃であつた。 善無畏が留錫中初めて建てたといふ、恰好のいい多寶塔をちらと振仰ぎながら、私は仙人堂へ急いだ。久米仙人の木像を見ようといふのだ。仙人は埃だらけの堂のなかで、相變らず婦人でも抱かうとするやうな、妙な手つきをして龕のなかに納まつてゐた。 私は久米の仙人が好きだ。好きだといつて、何も交際ぶりが氣に入つたとか、酒の上の話が合つたとかいふのではない。不思議な仙術を得て、あちらこちらと空を駈けずりまはる途すがら、そこいらの河の縁で洗濯女の白い脛を見て、急に地面に落ちたといふ、あの言傳へが氣に入つたのだ。 世の中の人は――わけて兩性の關係を口喧しく言ひながら、家庭では十人の子供を産まうといふ道徳家などは、まるで自分が生殖不能者ででもあるやうに、なんぞといつてはこの話を引張り出して、笑ひ事の一つにしようとするらしいが、私はそんな輕い解釋で、これを見過してしまふ事は出來ない。もしか私が仙人のやうな羽目になつたとして、ああした白い女の足を見たのでは、どうしても落ちて來さうに思はれる。いや落ちて
薄田泣菫
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