まえがき
アイヌ語の地名を調べていると、海岸、または河岸の洞窟に、あの世へ行く道の入口だというものが意外に多い。それらの洞窟は、だいたい次のような名で呼ばれている。
(一)アふンパ Ahn-par(入る・口)。アふンパロ Ahn-paro(入る・その口)。――胆振地方で。(二)アふンルパ Ahn-ru-par(入る・道・口)。アふンルパロ Ahn-ru-paro(入る・道・の口)。――胆振、日高国沙流、旭川市近文などで。(三)アふンルチャ Ahn-ru-char(入る・道・口)。アふンルチャロ Ahn-ru-charo(入る・道・の口)。――北海道北部地方で。(四)アふンポール Ahn-poru(入る・洞窟)。――日高国静内地方で。(五)オまンルパ Omn-ru-par(奥へ行く・道・口)。オまンルパロ Omn-ru-paro(奥へ行く・道・の口)。――胆振、日高などで。(六)うぇンルパ Wn-ru-par(悪い・道・口)。うぇンルパロ Wn-ru-paro(悪い・道・の口)。――石狩国上川地方で。(七)オぽナル O-pkna-ru(そこから・下方へ行く・道)。――北見国網走地方で。(八)ぽールチャ Pru-char(洞窟の・口)――日高国様似地方で。(九)ぽール Pru(洞窟)。――北海道いっぱん。(十)※ッソ Tsso(洞窟)。――樺太いっぱん。(十一)ペしゅィ Pesy(洞窟)。――北海道北見・釧路地方で。 これらの中には、たんに洞窟の意にすぎないものもあるが、大体は名そのものがあの世へ行く道の入口であることを示しているものが多く、それにからんでいろいろと伝説や信仰が語り伝えられているのがふつうである。
この種の洞窟は海岸や河岸の断崖にある横穴とふつうには考えられているようであるが、かならずしもそうではない。滝つぼがそれだというのもあり、海中の岩礁についている穴であることもある。さいきん調査した登別のアフンルパは、高台の上に人為的に掘った竪穴であった。
この種の洞窟が本来何であったかは、まだよく分らない。それらが古く祭儀――とくに海の――に関して用いられたものであろうということだけはほぼ察しがつくけれども、現実の宗教生活の中でそれがどのように用いられたものか、具体的なことは何ひとつ明らかにされていない。それを明らかにする鍵は、この種の洞窟をしらみつぶしに実地踏査することと、それらにまつわる伝承資料の蒐集検討の中にかくされているであろう。
本稿は、この種の洞窟にまつわる伝承資料を先ず紹介し、あわせて登別のアフンルパの踏査の結果を報告しようとするものである。