牧野信一 · 일본어
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원문 (일본어)
竹藪の蔭の井戸端に木蓮とコヾメ桜の老樹が枝を張り、野天風呂の火が、風呂番の娘の横顔を照してゐた。もう余程古いことであり、村の名前さへ稍朧ろ気であるが、私は不思議とその娘の名がるいといふのであつたと憶えてゐる。その時私は採集旅行の途中で大きな沼のあるその村への櫟林で大ムラサキ蝶を追ひかけるうちに可成りの断崖から滑つて脚を痛め、十日ちかくもその宿に滞留してゐたらうか? と思はれるが、その間だつて殆んどその娘と口など利いたこともなく、それも別段何かのはにかみを感じたからといふわけでもなく、ともあれ名前すらが記憶に残つてゐるといふだけでも私にとつては不思議な次第と思はざるを得ないのだ。宿屋と云つてもたゞの百姓家同然で、若しも軒先に煙草の看板ほどの酷く煤けた「おとまり宿」といふ板が掛つてゐなかつたら見逃すのが当然沁みた草葺屋根の不恰好な二階屋だつた。 二階は何時にも使つたこともなく物置同様で? と、素樸を装ひながら旅人を見る眼には仲々陰険な、そして業慾の貌がはつきりと窺はれる亭主が、二階をと望んだ私の申出を余程迷惑さうであつた。然し私は、夜になると囲炉裡端に大層な漁色漢沁みた連中が集つて面白くも
牧野信一
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