Vol. 2May 2026

Books

Public domain world knowledge library

14,981종 중 13,344종 표시

道鏡皇胤論について

喜田貞吉

野人かつて「道鏡皇胤論」一編を京大史学会の雑誌史林の誌上で発表した事があった。要は道鏡が天智天皇の皇孫であるとの旧説を祖述し、これによって道鏡に纏わる幾多の疑問を合理的に解説して、以て我が皇統の尊厳をいやが上にも明らかにせんとするにあった。しかるにそれを見られた仏教連合会の当時の幹部の人々は、従来我が仏教がこの悪逆なる妖僧の為に被った冤罪も、この研究によりて

JA
Original only

遠大なる心構

坂口安吾

遠大なる心構 坂口安吾 不平、希望、有るといへば多々ありますけれど、小さなことでごて/\言ひたくありません。私は黙つて立派な仕事をしたいのであります。けれども、私のこのなかなかに愛すべき心構えをすら脅やかさうとする悪気には(――ああ、小人故男子一生の心構えすらぐらつかされてしまふ!)憤りを覚えずにゐられない。 私は日本文学の「雑誌的」傾向が厭であります。我々

JA
Original only

遠州地方の足洗

喜田貞吉

徳川時代の法制では、エタは非人の上に立って、これを支配監督する地位にいたのではあるが、非人には通例足を洗うて素人に成ることが出来るという道が開いていたのに反して、エタには殆どこれが認められてないのが普通であった。これエタは神の忌み給う肉や皮の穢に触れたもので、人そのものが穢れているのであると誤信された結果である。したがって非人と呼ばれたものの多数が解放された

JA
Original only

遠州の墨蹟

北大路魯山人

小堀遠州といえば、先ず第一に京都の桂離宮を思い出す人も多いことであろう。また、お茶の世界になじんでいる人々は、ここに掲げたような墨蹟や、あるいは遠州作の茶杓花入れを思い浮べる人も多かろう。総合芸術家としての遠州は、広く芸術のあらゆる部門に優れた仕事の足跡を遺している。信念に成る力強さと同時に、洗練された才気が静かな輝きを放っている。 遠州の書は定家に類した書

JA
Original only

遠方の母

小川未明

正ちゃんは、三つになったときに、はじめて自分には、お母さんのないことを知りました。それは、どんなにさびしかったでありましょう。みんなに、お母さんがあるのに、どうして、自分にばかり、お母さんがないのか? それで、正ちゃんは、女中の脊中におぶわれながら、 「お母ちゃん、……お母ちゃん。」と、小さな掌で、女中の肩のあたりをたたきながら、呼びました。 それは、「私に

JA
Original only

遠藤(岩野)清子

長谷川時雨

遠藤(岩野)清子 長谷川時雨 一 それは、華やかな日がさして、瞞されたような暖かい日だった。 遠藤清子の墓石の建ったお寺は、谷中の五重塔を右に見て、左へ曲った通りだと、もう、法要のある時刻にも近いので、急いで家を出た。 と、何やら途中から気流が荒くなって来たように感じた。 「これは、途中で降られそうで――」 と、自動車の運転手は、前の硝子から、行く手の空を覗

JA
Original only

遠野へ

水野葉舟

遠野へ 水野葉舟 一 「いま、これから東の方に向って、この花巻を発つ。目的地の遠野に着くには、今夜、夜が少し更けてからだそうだ。」――この頃は、もう少しずつ雪が解けはじめたので、途中が非常な悪路だと聞いた。私は今日の道の困難なことを想像しながら、右の文句をはがきに書いた。私はこんどその遠野に帰っている友人に会うために、東京を出て来たのである。 ところへ、宿の

JA
Original only

遠くで鳴る雷

小川未明

二郎は、前の圃にまいた、いろいろの野菜の種子が、雨の降った後で、かわいらしい芽を黒土の面に出したのを見ました。 小さなちょうの羽のように、二つ、葉をそろえて芽を出しはじめたのは、きゅうりであります。 そのほかにもかぼちゃ、とうもろこしの芽などが生えてきました。 きゅうりは、だんだんと細い糸のようなつるを出しました。お母さんは、きゅうりの植わっているところに、

JA
Original only

遥かなる憧憬

西村陽吉

『万物は万人のものなり、何人の私有すべきものに非ず』この思想のいかに当然にして、しかして美しくして、しかして、いかに遠く我らの相距りたることよ! 我らは何物をも持たず、げに何物をも持たず、街を歩みて何物の一つをも、これを自由にし、使用し、消費する能わず、石ころの一つにも、一木の枝にも、その所有主の名は刻さる。 げに我らは、暖かなる日光に浴し、空気をも(その清

JA
Original only

遥かな旅

原民喜

夕方の外食時間が近づくと、彼は部屋を出て、九段下の爼橋から溝川に添い雉子橋の方へ歩いて行く。着古したスプリング・コートのポケットに両手を突込んだまま、ゆっくり自分の靴音を数えながら、 汝ノ路ヲ歩ケ と心に呟きつづける。だが、どうかすると、彼はまだ自分が何処にいるのか、今が何時なのか分らないぐらい茫然としてしまうことがある。神田の知人が所有している建物の事務室

JA
Original only

選後感〔第二十七回芥川賞選後評〕

坂口安吾

今回は揃っていたが、特に秀でたものがなかった。三浦朱門「斧と馬丁」、安岡章太郎「宿題」、武田繁太郎「朝来川」、庄野誠一「この世のある限り」、小山清「小さな町」、それに候補作の二ツ。いずれもチャンとした作品であるが、積極的にどれか一ツ推したいというものはない。 「雲と植物の世界」は前半だけ感心した。馬を書いてるうちは目をうたれるものがあったが、人間が現れたり戦

JA
Original only

選後感〔第二十六回芥川賞選後評〕

坂口安吾

「広場の孤独」は甚だ好評を得た作品のようですが、私は感心しませんでした。 日本の左翼文学がそうであったと同じように、自分の側でない者に対する感情的で軽々しいきめつけ方は、特に感心できません。つまり、この作者が人間全体に対している心構えの低さ、思想の根の浅さ、低さだろうと思います。文学はいつもただ「人間」の側に立つべきで、特定の誰の側に立つべき物でもありません

JA
Original only

選後に ――芥川賞(第二十九回)選後評――

岸田国士

候補作品として私の手許に送り届けられた十篇のうち、特に一篇だけ傑出したといふものはなかつた。安岡章太郎の「悪い仲間」と「陰気な愉しみ」は、いづれも稀にみるすぐれた才能を示した短篇小説だが、これだけとしては出来栄えにやゝ物足りないところがある。この作者の仕事を私は「ガラスの靴」以来注目してゐたので、今期の(本年一月―六月)作品だけを対象とするこの賞の規定に従つ

JA
Original only

選後に ――芥川賞(第二十二回)選後評――

岸田国士

今度は読みごたへのある作品が多く、だいたい粒がそろつてゐて、たいへん張り合ひがあつた。それだけにまたそのうちに幾篇かは、優劣をきめにくい長所に支へられてゐて、一篇を選びだすのに困難を感じた。 いろいろな文学賞があつて、それぞれ特色のある立場で、ほゞ限られた傾向のもののうちから、一応出来栄えのいいものを推すといふことであれば、このうちのいくつかは、おそらく何々

JA
Original only

選後に ――芥川賞(第二十五回)選後評――

岸田国士

毎回おなじ疑問をくり返すことになるが、この芥川賞の性格を、もつとはつきりさせなければ、選そのものも徒らにむつかしくなるし、賞の意味もそのために、稀薄になりはせぬかと思ふ。これは、選者の一人として外部に発表すべき意見ではないかも知れぬが、やはり、責任上、銓衡の結果について、もう少し割りきれたところを世間に公にした方がよいと思ふので、例へば、宇野浩二氏などの反対

JA
Original only

オリムピヤ選手予選

長瀬金平

明治四十四年十一月十九日! 我が大東の健児が近く世界の体育競争場裡に於て鉄脚の勁さを試すべく、東京府下羽根田の運動場に於て国際予選の大競走を行つた日である。 此日密雲低く垂れて寒気凛烈、男性的競技に持つて来いの天気、四周の観覧席は立錐の余地なき盛況を呈した。午前九時用意全く成る、羽根田原頭を見渡せば雪白の布を以て劃せる発走線には前日の予選に天晴先着の名誉を得

JA
Original only

選挙殺人事件

坂口安吾

選挙殺人事件 坂口安吾 三高木工所の戸口には、 「選挙中休業」のハリガミがでている。候補者の主人はそれですむであろうが、従業員は困るだろう。近所の噂をきいてみると、 「従業員たって、小僧のようなのも合わせて七八人の事ですよ。みんな選挙運動に掛りきりですから、商売は休業でも多忙をきわめているのですよ」という話であった。三高吉太郎という人物は、終戦後この土地へ現

JA
Original only

選挙漫談

黒島伝治

選挙漫談 黒島傳治 投票を売る 投票値段は、一票につき、最低五十銭から、一円、二円、三円と、上って、まず、五円から、十円どまり位いだ。百姓が選挙場まで行くのに、場所によっては、二里も三里も歩いて行かなければならない。 ところが、彼等は遊んでいられる身分ではない。丁度、秋蚕の時分だし、畑の仕事もある。そこで、一文にもならないのならば、彼等は棄権する。二里も三里

JA
Original only

ラヂオ・ドラマ選者の言葉

岸田国士

ラヂオ・ドラマ選者の言葉 岸田國士 ラヂオ文学といふ新しい様式について、私は常に興味をもち、なにか原理的なものを発見しようと心掛けてゐるのだが、放送局との関係も、別にそのために特殊な便宜を与へられてゐるわけではないから、なかなか思ふやうに研究もできないでゐる。 今日まで、ラヂオ・ドラマと称せられてゐる一種の形式も、自分だけの頭では、いろいろな空想が結びついて

JA
Original only

「サント・ブウヴ選集」推薦の言葉

岸田国士

批評は科学でもあり芸術でもあるといふ意味に於て、サント・ブウヴは正に批評家の典型である。批評の対照は彼によつて概ね例外なく鋭いメスを加へられ、そして、隠れた美質をつまみ出された。フランス文学の理解は、彼の「毒舌」に負ふところが多いことを、誰でも認めるだらうが、たゞ批評に魅せられることを望むものも亦、彼の業績を一瞥すべきである。 ●図書カード

JA
Original only

遺伝

小酒井不木

遺伝 小酒井不木 「如何いう動機で私が刑法学者になったかと仰しゃるんですか」と、四十を越したばかりのK博士は言った。「そうですねえ、一口にいうと私のこの傷ですよ」 K博士は、頸部の正面左側にある二寸ばかりの瘢痕を指した。 「瘰癧でも手術なすった痕ですか」と私は何気なくたずねた。 「いいえ、御恥かしい話ですが……手っ取り早くいうならば、無理心中をしかけられた痕

JA
Original only

遺恨

坂口安吾

遺恨 坂口安吾 梅木先生は六十円のオツリをつかんで中華料理店をとび出した。支那ソバを二つ食ったのである。うまかったような気がする。然し、味覚の問題ではない。先生は自殺したくなっていた。インフレ時代に物を食うということが、こんなミジメなものだとは。お金をだしながら乞食の自覚を与えられたのであった。 梅木先生は裏口営業とはどんなものか知らなかった。終戦以来、料理

JA
Original only

遺愛集 01 序

窪田空穂

数日前、巣鴨拘置所内に、死刑囚として拘置されている島秋人君から来状があり、今度はからずも、篤志の方々の厚情によって、「遺愛集」と題している自分の歌集が出版されることになった。ありがたい次第であるといって、その方々との心つながりを、言葉短く知らせて来た。心つながりは、何れも同君が、「毎日新聞」の歌壇に投稿している短歌で、選者としての私の選に入選した作をとおして

JA
Original only