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四風の街
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四風の街
チェンバースロバート・W
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Traducción Pagera AI
Original Public Domain
Chapter 2 of 3

二

「昼ご飯をなんとかできたのは」セヴァーンは座り直して伸びをした「幸運だった。お前の晩ご飯は銀貨一枚で買える中からやりくりしなければならないからね。」

猫は膝の上から起き上がり、背中を丸め、欠伸をして、彼を見上げた。

「何にしようか。サラダ付きの照り焼きチキンはどう? いらない? 牛肉の方がいいんだろう? もちろんそうだな――私は卵と白パンにしよう。葡萄酒の代わりにお前はミルクだな? よし。樽からちょっと水を取ってこよう。」と言い、彼はさっと流しのバケツの方に向いた。

彼を帽子をかぶって部屋を出た。戸口までそれを追ってきた猫は、ドアが閉まるとそこに座り、割れ目のにおいを嗅いで、おんぼろ屋敷がきしむたびに片耳をそばだてた。

下の方で扉が開き、閉まった。猫は真剣なふうになり、しばらくの間疑い深そうにして、神経質に両耳を平らにした。やがて、尻尾を一振りして立ち上がると、音もなくアトリエを歩き回り始めた。テレピン油の入れ物を嗅いでくしゃみをし、即座に退却してテーブルに乗った。一巻きの赤い塑造用ワックスに対する好奇心を満足させると、ドアの所に戻って座り、敷居の上にある割れ目に目を走らせた。そこで猫は物悲しげに鳴いた。

セヴァーンが帰って来た時、深刻そうな彼の様子をよそに、猫は大喜びで彼の周りを歩き回り、ガリガリになった身体を両脚にこすりつけ、頭を熱狂的に彼の手の中に突っ込み、騒音めいた音になるまで喉を鳴らし続けた。

彼は茶色の紙で包んだひとかけらの肉をテーブルの上におき、ペンナイフで細切れにした。薬瓶だったものからミルクを取って、暖炉の上の皿に入れた。

猫はその前に這い寄って、舌なめずりしながらゴロゴロいった。

卵を料理して薄切りのパンと一緒に食べながら、彼は猫が細切れの肉を忙しくぱくつくのを見つめ、食事が終わると流しのバケツからコップ一杯の水を汲んで飲んだ。彼は座って猫を膝の中に乗せた。猫はそこでいったん丸くなり、毛繕いを始めた。彼は再び話し始めた。話を強調したいときは優しくなでながら。

「猫よ、お前の女主人の住所をみつけてしまったよ。そんなに遠くない――ここ、雨漏りのするこの同じ屋根の下だ。けれどそれは北翼だった。無人だろうと思っていた所だ。管理人が教えてくれた。たまたま今晩は飲んだくれていなかったんでね。お前の肉を買ったセーヌ通りの肉屋はお前のことを知っていたよ。パン屋のカバンヌ爺さんはお前のことをやけに嫌みっぽく言ってたっけ。彼らがお前の女主人について語ったことはあまりに酷くて信じたくない。ぐうたら、見栄っ張り、遊び女だなんて。脳みそはウサギ並みで無鉄砲だって言うんだ。一階に住んでいる小柄な彫刻家だけど、ちょうどカバンヌ爺さんの店でロールパンを買うところで、いつもお互いに挨拶はしていて、でも話をしたのは今夜が初めてなんだ。その女は大変善良な美人ですと言ってくれた。一度会ったきりで名前は知らないと。私は彼にお礼を言った――どうしてあんなに熱心に礼を言ったのだろう。カバンヌは言ってたよ『この呪われた四風の街には、四つの風がありとあらゆる邪悪なものを吹き寄せてくるのじゃ』って。彫刻家は戸惑っているようだった。しかし、パンを持って出て行くときに、彼は私に言ったんだ、『本当です、ムシュー、彼女は美しいのと同じくらい良い人ですよ。』と。」

猫は毛繕いを終えた。静かに床に飛び降り、扉の所に行ってくんくんにおいを嗅いだ。彼は猫のそばに跪いてガーターを外し、しばし手に取った。やがてこう言った「留め金の下の銀の金具に名前が書いてある。すてきな名前だ。シルヴィア・エルヴァン。シルヴィアは女の名で、エルヴァンは町の名だ。パリでは、この区では、とりわけ四風の街では、名前は擦り切れ、季節とともに移ろう流行のように使い捨てにされてしまう。私はエルヴァンという名の小さな町を知っている。そこで私は運命の女神と出逢ったが、その女神は薄情だった。なあ、エルヴァンでは運命の女神に別の名があって、その名がシルヴィアだったと知っているか?」

彼はガーターを付け直し、立ち上がり、閉じたドアの前にうずくまる猫を見下ろした。

「エルヴァンという名前は私を魅了する。草原と清流のことを物語る。シルヴィアという名前は煩わしい。枯れた花の香りのように。」

猫はニャオと鳴いた。

「わかった、わかった、」彼は落ち着かせるように言った「お前を飼い主に返してあげよう。お前のシルヴィアは私のシルヴィアじゃない。世界は広く、エルヴァンは誰にも知られぬ土地だという訳でもない。だが、パリの貧民窟の暗い汚物の中に、こんな古びた家の物悲しい陰の中に居てさえも、それらの名前は私にとって本当に嬉しいものなんだ。」

彼は猫を抱きあげ、静かな廊下を階段に向けて歩んだ。階段を五つ下り、月に照らされた中庭に出た。小さな彫刻家のねぐらを過ぎ、北翼の門から再び建物に入ると、虫に食われた木の階段を上がった。閉じたドアにたどり着いた。そこで何度もノックを繰り返してやっと、ドアの背後で何かが動いた。ドアが開き彼は中に入った。暗い部屋だった。敷居を跨いだ時、猫は腕から影の中へと飛び出していった。耳を澄ましたが何も聞こえなかった。静寂は堪え難いほどで、彼はマッチを擦った。肘の所にテーブルがあり、テーブルの上に鍍金の燭台があり、一本の蝋燭が立っていた。彼はこれに火をともすと周りを見回した。部屋は広漠としていて、掛け布には一面に刺繍があった。暖炉の上にある彫刻された背の高いマントルピースは消えた火の灰で覆われていた。壁深くしつらえられた窓の脇の奥まった所にベッドがあり、そこから磨かれた床の上にレース風の柔らかく細かなベッドカバーがずり落ちていた。蝋燭を頭上に掲げると、足下には一枚のハンカチーフが落ちていた。微かな香りがした。彼は窓に向き直った窓の手前に canap があり、長椅子の向こうには、絹のガウンが一枚、蜘蛛の巣のように白く繊細なレース仕立てのガーメントが一山、皺の寄った長手袋といった種々の物が雑然としていた。床に落ちたストッキングの下に尖った小さな靴があった。そしてバラ色のガーターが一つ。奇麗に花で飾られて、銀の金具で締められて。不思議に思い、ベッドまで歩いて重いカーテンをのけた。蝋燭の炎が彼の手の中で暫しの間揺れた。彼の双眸は、もう一組の双眸と出逢った。その目は大きく開かれ、微笑んでいた。髪の上で蝋燭の火が深い金色にさざめいた。

彼女は蒼白だった。だが彼の顔色ほどではなかった。彼女の目は子供のように安らかだった。だが彼の目はじっと動かなかった。手の中で蝋燭が瞬くほど総身を震わせながら。

ようやく彼は囁いた「シルヴィア、私だ。」

もう一度「私だよ。」

そして彼女が死人と知り、彼は唇を重ねた。猫は膝頭で喉を鳴らし、肉球を押し付けては離し、長い夜を見守った。四風の街の空が白み始めるまで。

完

Chapter 2 of 3
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