Chapter 7 of 25
(3)富川のオマンルパロ
日高国沙流郡富川町は、もと佐留太と云った所で、原名「さプ」sr-putu(沙流川の川口)、その名の通り沙流川の川口にある町である。その富川駅のやや下手の右岸の崖に洞穴があって、オマンルパロ(奥へ行く道の入口)とよばれている。それについて、次のような伝説が伝えられている。
昔、妻に先立たれて寂しく暮らしていた男が、或時海辺へ仕事に行くと、亡くなった妻とそのままの一人の女が見馴れない着物を着て昆布をとっていたが、男の顔を見ると急に恥ずかしそうにしているので、男の方から近づいて行くと女は急いで逃げ出した。あとを追っていくと、女は小さな穴の中に入ってしまったので、男も続いてその穴の中に入っていくと、穴の中は真暗いが、しばらく行くと明るくなって部落が見えた。そこへ行くと女の父母と思われる二人の老人が坐っていた。ところが逃げて行った女に老婆の指が触れたと思うと、女の姿は忽然と消えてしまい、近所の人々が皆とむらいに集って来て、儀式の供物をして葬式をしている。この様子をぼんやりと見ていた男は、急に気がついて戻ろうとすると、いつのまにか葬儀の供物がふところの中に入っていたので男は品物を持ち帰ってその話をしたという。これは地獄穴だということである。(吉田巌氏採集、『人類学雑誌』二九巻一〇号所載――『北海道伝説集』61―2ページ)
この伝説の中で、あの世の女が急に死んでそこで葬式が行われたというのは、気にかかる書き方である。あの世では死がないというのがアイヌの説話に普遍的な信仰だからである。地獄穴などという呼称が、まちがいであることはもちろんである。