Vol. 2May 2026

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Perpustakaan pengetahuan dunia domain publik

14,981종 중 2,544종 표시

男心とはかうしたもの 女のえらさと違う偉さ

岡本かの子

尊敬したい気持 結婚前は、男子に対する観察などいつても、甚だ漠然としたもので、寧ろこの時代には、男とも、女とも意識しなかつた位です。 それが結婚して、やうやく男子に対する自覚が出来、初めて男といふものが解つた時、私の感じたのは、男子といふものは事業慾が強くて、一般に利己主義なものだと思ひました。 然しかうした考へは、まだ充分に男子といふものが解つてゐない。つ

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一平氏に

岡本かの子

一平氏に 岡本かの子 そちらのお座敷にはもうそろそろ西陽が射す頃で御座いませう? 鋭い斜光線の直射があなたのお机のわきの磨りガラスの窓障子へ光の閃端をうちあてると万遍なくお部屋の内部がオレンヂ色にあかるくなりますのね、そしてにわかに蒸暑くなるのでせう、あなたは急に汗を余計お出しになる。でもあなたは、それがどういふ理由からだか分らないやうに余計出れば、何の気な

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岡本かの子

星 岡本かの子 晴れた秋の夜は星の瞬きが、いつもより、ずつとヴイヴイツトである。殊に月の無い夜は星の光が一層燦然として美しい。それ等の星々をぢつと凝視してゐると、光の強い大きな星は段々とこちらに向つて動いて来るやうな気がして怖いやうだ。事実太洋を航海してゐるとき闇夜の海上の彼方から一点の光がこちらに向つて近づいて来る。何であらうと一心にそれを見守つてゐると、

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ダミア

岡本かの子

ダミア 岡本かの子 うめき出す、といふのがダミアの唄ひ方の本当の感じであらう。そして彼女はうめくべく唄の一句毎の前には必らず鼻と咽喉の間へ「フン」といつた自嘲風な力声を突上げる。 「フン」「セ・モン・ジゴロ…………」である。 これに不思議な魅力がある。運命に叩き伏せられたその絶望を支へてじり/\下から逆に扱き上げて行くもはや斬つても斬れない情熱の力を感じさせ

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新茶

岡本かの子

新茶 岡本かの子 それほど茶好きでなくとも、新茶には心ひかれる。 あの年寄りじみた、きつい苦みがないし、晴々しい匂ひがするし、茶といふよりも、若葉の雫を啜るといふ感じである。 色がいゝ。白磁の茶椀の半を満してゆらめく青湖の水。 さなりき、誘ふニンフも 誘はるゝ男妖精も共に髪ぞ青かりし 揺曳とした湯気の隙間から、茶椀の岸にさういふ美麗が見えるやうな気がする。

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岡本かの子

朧 岡本かの子 早春を脱け切らない寒さが、思ひの外にまだ肩や肘を掠める。しかし、宵の小座敷で燈に向つてゐると、夜のけはひは既に朧である。うるめる物音、物影。 「日本的なるもの」の一つに「朧」がある。よし、それが淨土教の影響によるにもせよ、老莊道學の示唆を得たにもせよ、わが國人の氣魄とやはらぎを享けて生活趣味の常用燈となつた以上、立派に國産である。單に外來のみ

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雑煮

岡本かの子

雜煮 岡本かの子 維新前江戸、諸大名の御用商人であつた私の實家は、維新後東京近郊の地主と變つたのちまでも、まへの遺風を墨守して居る部分があつた。 いろは順で幾十戸前が建て列ねた藏々をあづかる多くの番頭、その下の小僧、はした、また奧女中の百人近い使用人へ臨んだ主人としての態度は、今でも東京の下町の問屋あたりの老主人がかたく墨守して居るそれと變りはなかつた。正月

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英国メーデーの記

岡本かの子

英国メーデーの記 岡本かの子 倫敦に於ける五月一日は新聞の所謂「赤」一党のみが辛うじてメーデーを維持する。 それさへ華やかに趣向を凝らし警戒の巡査と諧謔を交しながらの祝賀気分だ。われわれが世界共通のものとしてメーデーを概念してゐるところの合成人間の危険性を内包した黙圧もしくは爆叫には殆ど出逢へないと云つて宜しい。 これは無産階級風に描かれたニースの花祭だ。市

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雛妓

岡本かの子

なに事も夢のようである。わたくしはスピードののろい田舎の自動車で街道筋を送られ、眼にまぼろしの都大路に入った。わが家の玄関へ帰ったのは春のたそがれ近くである。花に匂いもない黄楊の枝が触れている呼鈴を力なく押す。 老婢が出て来て桟の多い硝子戸を開けた。わたくしはそれとすれ違いさま、いつもならば踏石の上にのって、催促がましく吾妻下駄をかんかんと踏み鳴らし、二階に

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河明り

岡本かの子

私が、いま書き続けている物語の中の主要人物の娘の性格に、何か物足りないものがあるので、これはいっそのこと環境を移して、雰囲気でも変えたらと思いつくと、大川の満ち干の潮がひたひたと窓近く感じられる河沿いの家を、私の心は頻りに望んで来るのであった。自分から快適の予想をして行くような場所なら、却ってそこで惰けて仕舞いそうな危険は充分ある。しかし、私はこの望みに従う

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鶴は病みき

岡本かの子

白梅の咲く頃となると、葉子はどうも麻川荘之介氏を想い出していけない。いけないというのは嫌という意味ではない。むしろ懐しまれるものを当面に見られなくなった愛惜のこころが催されてこまるという意味である。わが国大正期の文壇に輝いた文学者麻川荘之介氏が自殺してからもはや八ヶ年は過ぎた。 白梅と麻川荘之介氏が、何故葉子の心のなかで相関聯しているのか、麻川氏と葉子の最後

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母子叙情

岡本かの子

かの女は、一足さきに玄関まえの庭に出て、主人逸作の出て来るのを待ち受けていた。 夕食ごろから静まりかけていた春のならいの激しい風は、もうぴったり納まって、ところどころ屑や葉を吹き溜めた箇所だけに、狼藉の痕を残している。十坪程の表庭の草木は、硝子箱の中の標本のように、くっきり茎目立って、一きわ明るい日暮れ前の光線に、形を截り出されている。 「まるで真空のような

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食魔

岡本かの子

菊萵苣と和名はついているが、原名のアンディーヴと呼ぶ方が食通の間には通りがよいようである。その蔬菜が姉娘のお千代の手で水洗いされ笊で水を切って部屋のまん中の台俎板の上に置かれた。 素人の家にしては道具万端整っている料理部屋である。ただ少し手狭なようだ。 若い料理教師の鼈四郎は椅子に踏み反り返り煙草の手を止めて戸外の物音を聞き澄ましている。外では初冬の風が町の

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金魚撩乱

岡本かの子

今日も復一はようやく変色し始めた仔魚を一匹二匹と皿に掬い上げ、熱心に拡大鏡で眺めていたが、今年もまた失敗か――今年もまた望み通りの金魚はついに出来そうもない。そう呟いて復一は皿と拡大鏡とを縁側に抛り出し、無表情のまま仰向けにどたりとねた。 縁から見るこの谷窪の新緑は今が盛りだった。木の葉ともいえない華やかさで、梢は新緑を基調とした紅茶系統からやや紫がかった若

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渾沌未分

岡本かの子

渾沌未分 岡本かの子 小初は、跳ね込み台の櫓の上板に立ち上った。腕を額に翳して、空の雲気を見廻した。軽く矩形に擡げた右の上側はココア色に日焦けしている。腕の裏側から脇の下へかけては、さかなの背と腹との関係のように、急に白く柔くなって、何代も都会の土に住み一性分の水を呑んで系図を保った人間だけが持つ冴えて緻密な凄みと執拗な鞣性を含んでいる。やや下ぶくれで唇が小

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岡本かの子

東京の下町と山の手の境い目といったような、ひどく坂や崖の多い街がある。 表通りの繁華から折れ曲って来たものには、別天地の感じを与える。 つまり表通りや新道路の繁華な刺戟に疲れた人々が、時々、刺戟を外ずして気分を転換する為めに紛れ込むようなちょっとした街筋―― 福ずしの店のあるところは、この町でも一ばん低まったところで、二階建の銅張りの店構えは、三四年前表だけ

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狂童女の恋

岡本かの子

――きちがひの女の兒に惚れられた話をしませう。 と詩人西原北春氏はこの詩人得意の「水花踊」などまだ始まらぬまだほんのほの/″\と酒の醉ひがまはりかけたばかりのところで――あれが始まるころはまつたく泥醉状態になつた西原氏なので――話し始めた。 支那の李太白らが醉つて名詩を作つたといふのはどれほどの醉ひに達したときか知りませんが、わが國の大詩人西原北春氏にありて

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家霊

岡本かの子

家霊 岡本かの子 山の手の高台で電車の交叉点になっている十字路がある。十字路の間からまた一筋細く岐れ出て下町への谷に向く坂道がある。坂道の途中に八幡宮の境内と向い合って名物のどじょう店がある。拭き磨いた千本格子の真中に入口を開けて古い暖簾が懸けてある。暖簾にはお家流の文字で白く「いのち」と染め出してある。 どじょう、鯰、鼈、河豚、夏はさらし鯨――この種の食品

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東海道五十三次

岡本かの子

東海道五十三次 岡本かの子 風俗史専攻の主人が、殊に昔の旅行の風俗や習慣に興味を向けて、東海道に探査の足を踏み出したのはまだ大正も初めの一高の生徒時代だったという。私はその時分のことは知らないが大学時代の主人が屡々そこへ行くことは確に見ていたし、一度などは私も一緒に連れて行って貰った。念の為め主人と私の関係を話して置くと、私の父は幼時に維新の匆騒を越えて来た

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老妓抄

岡本かの子

老妓抄 岡本かの子 平出園子というのが老妓の本名だが、これは歌舞伎俳優の戸籍名のように当人の感じになずまないところがある。そうかといって職業上の名の小そのとだけでは、だんだん素人の素朴な気持ちに還ろうとしている今日の彼女の気品にそぐわない。 ここではただ何となく老妓といって置く方がよかろうと思う。 人々は真昼の百貨店でよく彼女を見かける。 目立たない洋髪に結

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鯉魚

岡本かの子

鯉魚 岡本かの子 一 京都の嵐山の前を流れる大堰川には、雅びた渡月橋が架っています。その橋の東詰に臨川寺という寺があります。夢窓国師が中興の開山で、開山堂に国師の像が安置してあります。寺の前がすぐ大堰川の流で「梵鐘は清波を潜って翠巒に響く」という涼しい詩偈そのままの境域であります。 開山より何代目か経って、室町時代も末、この寺に三要という僧が住持をしていまし

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恋愛といふもの

岡本かの子

恋愛といふもの 岡本かの子 恋愛は詩、ロマンチツクな詩、しかも決して非現実的な詩ではないのであります。恋愛にも種々あります、幼時の初恋、青年期中年期の恋、その何れもが大部分自分の意識する処は、詩的感激、ロマンチツクな精神慾ではありますが、意識無意識にかゝはらず、その底には厳として、肉体的意慾が横はり、それが流露を遂げさせんとの自然の意志が実に緊密に加勢せられ

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みちのく

岡本かの子

桐の花の咲く時分であった。私は東北のSという城下町の表通りから二側目の町並を歩いていた。案内する人は土地の有志三四名と宿屋の番頭であった。一行はいま私が講演した会場の寺院の山門を出て、町の名所となっている大河に臨み城跡の山へ向うところである。その山は青葉に包まれて昼も杜鵑が鳴くという話である。 私はいつも講演のあとで覚える、もっと話し続けたいような、また一役

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風と裾

岡本かの子

春の雷が鳴つてから俄に暖気を増し、さくら一盛り迎へ送りして、今や風光る清明の季に入らうとしてゐる。 ところで、この季節の風であるが、春先からかけて関東は随分吹く。その激しいときは吹きあげる砂ほこりで空は麦粉色になり、太陽は卵の黄身をその中へ落したやうである。郊外住宅者は干し物を東南方の側には出して乾せない日である。 外を歩いてゐると、いつの間にか曇り出し小さ

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