Vol. 2May 2026

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さるのこしかけ

宮沢賢治

さるのこしかけ 宮沢賢治 楢夫は夕方、裏の大きな栗の木の下に行きました。その幹の、丁度楢夫の目位高い所に、白いきのこが三つできていました。まん中のは大きく、両がわの二つはずっと小さく、そして少し低いのでした。 楢夫は、じっとそれを眺めて、ひとりごとを言いました。 「ははあ、これがさるのこしかけだ。けれどもこいつへ腰をかけるようなやつなら、すいぶん小さな猿だ。

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しゃしんやさん

小川未明

あつい 日でした。正ちゃんは あおぎりの 木の 下で、すべりだいに のって あそんで いました。 そこへ、かみの ながい しゃしんやさんが はいって きて、 「ひとつ うつさせて くださいませんか。」 と たのみました。この しゃしんやさんは きかいを さげて、ごようを ききに あるくのです。 「子どもを とって もらいましょうか。」 と、おかあさんは おっ

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ねことおしるこ

小川未明

「お姉ちゃん、お姉ちゃん、たいへん。」と、まくらをならべている正ちゃんが、夜中にお姉さんを起こしました。よく眠入っていたお姉さんは、何事かと思って、おどろいて目をさまして、 「どうしたの、正ちゃん。」と、いまにも立ち上がろうとなさいました。 「あれ、たいへんじゃないか。」と、正ちゃんは、大きな目をあけて、耳をすましていました。 「なにさ、なにがたいへんなの。

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ばけものばなし

岸田劉生

ばけものばなし 岸田劉生 * これは怪談をするのではない、ばけものについて、いろいろと考えた事や感じたこと等、思い出すままに描いてみようと思うのである。画工である私は、ばけものというものの興味を、むしろ形の方から感じている。そんな訳で、私の百鬼夜行絵巻も文の間に添えておこうと思う。 君子は乱神怪力を語らず 孔子様は、君子は乱神怪力を語らずといわれた。さすがに

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ひとをたのまず

小川未明

ある日、私は偶然、前を歩いていく三人の子供を、観察することができました。 甲は背が高く、乙は色が黒く、丙はやせていました。そして、バケツを下げるもの、ほうきを持つもの、そのようすはどこかへそうじをしに、いくように見えました。 その日、彼らは、学校で、成績表をもらったのであろうか、 「君は、成績が、よかった?」と、乙が、甲に向かって、ききました。 甲は、すまし

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まざあ・ぐうす

作者不詳

お母さんがちょうのマザア・グウスはきれいな青い空の上に住んでいて、大きな美しいがちょうの背中にのってその空を翔けったり、月の世界の人たちのつい近くをひょうひょうと雪のようにあかるくとんでいるのだそうです。マザア・グウスのおばあさんがそのがちょうの白い羽根をむしると、その羽根がやはり雪のようにひらひらと、地の上に舞うてきて、おちる、すぐにその一つ一つが白い紙に

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わかしとおゆと

折口信夫

わかしとおゆと 折口信夫 動詞形容詞一元論のたちばは、おもに、形式のうへにあるのだが、中には、意味のうへにまでも立入つて、其説を主張する人がある。今いはうとするわかしとおゆとの如きは、其屈強な材料なのである。 意味において、形容詞わか・しに対して居るお・ゆが、動詞であるのを見ても、一元なることは考へがたくないといふ。しかし、わかしとおゆとは意味において、しつ

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アド・バルーン

織田作之助

その時、私には六十三銭しか持ち合せがなかったのです。 十銭白銅六つ一銭銅貨三つ。それだけを握って、大阪から東京まで線路伝いに歩いて行こうと思ったのでした。思えば正気の沙汰ではない。が、むこう見ずはもともと私にとっては生れつきの気性らしかったし、それに、大阪から東京まで何里あるかも判らぬその道も、文子に会いに行くのだと思えば遠い気もしなかった、……とはいうもの

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イエスとペテロ

片山広子

聖書の中にあるイエス・キリストやお弟子たちの話が、人の口から耳へ、思ひもかけない遠くの国に伝へられて、その国のキリストやペテロの話になつてゐることもある。これはアイルランドの民話で、ユダヤ、サマリヤ、ガリラヤの国々がすぐ彼等の村々に続いてゐるやうにも聞える話である。 イエス・キリストがガリラヤの湖のほとりや野はらや町を歩かれた時、いつも十二人の弟子がみんなで

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エロディヤッド

マラルメステファヌ

……………………噫なんぢ、鏡よ、 愁によつてその縁の中に凍りたる水よ、 いくたびも、いく時も、我が夢を悲み痛みて、 なんぢが底深き氷の下に沈みたる 落葉に似たるわが思出を求めつゝ、 われは汝の奧にはるかなる影とあらはる。 しかも、あゝ、夕となれば冷然たる泉の中に、 亂れ散るわが夢のはだか身を知る怖かな。

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オランウータン

豊島与志雄

オランウータン 豊島与志雄 今になって、先ず漠然と思い起すのは、金網のなかの仔猿のことである。動物園だったか、植物園だったか、それとも公園だったか、それは忘れた。広い金網のなかに親仔数匹の猿がはいっていた。暖い晴れた午後のこと、私はステッキを打振りながら散歩していたが、ふと、そこに足を止めた。女や子供や、背広服の男もいたようだが、大勢の人が猿を眺めていた。

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カメラをさげて

寺田寅彦

カメラをさげて 寺田寅彦 このごろ時々写真機をさげて新東京風景断片の採集に出かける。技術の未熟なために失敗ばかり多くて獲物ははなはだ少ない。しかし写真をとろうという気で町を歩いていると、今までは少しも気のつかずにいたいろいろの現象や事実が急に目に立って見えて来る。つまり写真機を持って歩くのは、生来持ち合わせている二つの目のほかに、もう一つ別な新しい目を持って

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カンナとオンナ

北大路魯山人

カンナとオンナ 北大路魯山人 ひぐらしの鳴き声が涼しい。 わたしは、わたしのテーブルの前に坐って料理をし、客はわたしのテーブルの前に坐っていた。 わたしは、料理をいつも自分で作りつつ食べ、客にもすすめる。 客は詩人であった。 どんな詩をつくるのかわたしは知らぬ。その詩人も、見せたことはないし、わたしも、見せてくれといったことはない。詩人だか、死人だか、わたし

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クラム・ベーク

中谷宇吉郎

米國の東海岸、ニュー・イングランド地方には、流石に古い傳統が殘っていて、ジャズの國アメリカでは一寸考えられないような料理がある。「クラム・ベーク」というのが、その一つであって、今度の會議の懇親會で、初めて食べてみたが、なかなか風趣のある料理である。これは東部でも、海岸地方にだけ殘っているもので、日本でも珍しい料理の一つであろう。 料理は野外でやるので、廣々と

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ゲタニ バケル

新美南吉

ゲタニ バケル 新美南吉 ムラガ アリマシタ。ムラノ ソトヲ ヲガハガ ナガレテ ヰマシタ。カハノ キシニハ ハンノキガ シゲツテ ヰマシタ。 ハンノキノ シタデ オカアサンノ タヌキガ コドモノ タヌキニ バケル コトヲ ヲシヘテ ヰマシタ。 「オテラノ コゾウサンニ バケル トキハ コロモヲ ツケテ デルノダヨ。オサムラヒニ バケル トキハ マゲヲ ツケ

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センセイノ コ

新美南吉

センセイノ コ 新美南吉 タキクンノ オトウサンハ 一ネン ダンシノ ウケモチデシタ。オトウサンハ ハナノ 下ニ クロイ ヒゲヲ ツケテ ヰタノデ、コドモタチハ 「ヒゲサン」ト ヨンデ ヰマシタガ、ヤガテ タキクンノ コトモ 「ヒゲサン」ト ヨブヤウニ ナリマシタ。タキクンハ 「ヒゲサン」ト ヨバレルノガ イヤデ タマリマセン。 「ヒゲサン。」ト アル ヒ、

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ダス・ゲマイネ

太宰治

當時、私には一日一日が晩年であつた。 戀をしたのだ。そんなことは、全くはじめてであつた。それより以前には、私の左の横顏だけを見せつけ、私のをとこを賣らうとあせり、相手が一分間でもためらつたが最後、たちまち私はきりきり舞ひをはじめて、疾風のごとく逃げ失せる。けれども私は、そのころすべてにだらしなくなつてゐて、ほとんど私の身にくつついてしまつたかのやうにも思はれ

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ダス・ゲマイネ

太宰治

ダス・ゲマイネ 太宰治 一 幻燈 当時、私には一日一日が晩年であった。 恋をしたのだ。そんなことは、全くはじめてであった。それより以前には、私の左の横顔だけを見せつけ、私のおとこを売ろうとあせり、相手が一分間でもためらったが最後、たちまち私はきりきり舞いをはじめて、疾風のごとく逃げ失せる。けれども私は、そのころすべてにだらしなくなっていて、ほとんど私の身にく

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チューインガム

寺田寅彦

チューインガム 寺田寅彦 銀座を歩いていたら、派手な洋装をした若い女が二人、ハイヒールの足並を揃えて遊弋していた。そうして二人とも美しい顔をゆがめてチューインガムをニチャニチャ噛みながら白昼の都大路を闊歩しているのであった。 去年の夏築地小劇場のプロ芝居を見物に行ったときには、四十恰好のおばさんが引っ切りなしにチューインガムを噛んでいるのを発見して不思議な感

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ニューフェイス

坂口安吾

ニューフェイス 坂口安吾 前頭ドンジリの千鳥波五郎が廃業してトンカツ屋を開店することになったとき、町内の紺屋へ頼んだノレンが届いてみると「腕自慢、江戸前トンカツ、千鳥足」と意気な書体でそめあげてある。 千鳥波が大変怒ってカケアイに行くと、紺屋のサブチャンが、呆れて、 「アレ、変だねエ。だって、お前がそう頼んだんじゃないか」 「からかっちゃ、いけないよ。ワタシ

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ハナとタマシヒ

平山千代子

ハナとタマシヒ 平山千代子 ハナ いつごろだつたのか、誰であつたか、多分、渡辺千代子さんだつたと思ふが、私をそつと手招きして、校庭のすみへつれて行つた。そして小さな声で、 「あのね、ハナッて、何んだか知つてる?」 「ハナ? ハナッて……この鼻?」と私は鼻を指先で叩いてみせた。 「うん、出てくる鼻汁よ」 「うゝうん、知らない」と首をふると、 「あのね、ハナはノ

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バークレーより

沖野岩三郎

バークレーより 沖野岩三郎 サンフランシスコから渡船でオークランドに渡り、更にエス・ビーの電車で五哩程行くと、セミナリー・アヴェニュに出る。ここで下車して山手の方へ十町ばかり行くと、そこにユーカリプタスの森がある。その森の中には太平洋沿岸最古の女子大学ミルスカレッジがある。遠慮なくカレッジの庭を通りぬけて、三哩ばかり自動車を走らすと、ハイツに着く。 ハイツと

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