Vol. 2May 2026

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四十余日

水野仙子

四十餘日 水野仙子 一 炬燵にうつ伏したまゝになつてゐて、ふと氣がついてみると、高窓が青白いほど日がのぼつてゐた。びつくりして飛び起きてお芳はそこらを見廻した。子供の聲やら荷馬車の轍の音やら、表どほりはもうがやがやしてをるらしいのに、店の者もまだ前後不覺に寢入つてゐる。清治といふ小僧の名を二聲ばかり呼んで、お芳はぐづぐづになつた帶を解いてきりつと着物の前を合

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四十年前 ――新文学の曙光――

内田魯庵

亜米利加の排日案通過が反動団体のヤッキ運動となって、その傍杖が帝国ホテルのダンス場の剣舞隊闖入となった。ダンスに夢中になってる善男善女が刃引の鈍刀に脅かされて、ホテルのダンス場は一時暫らく閉鎖された。今では余熱が冷めてホテルのダンス場も何カ月ぶりかで再び開かれたが、さしもに流行したダンス熱は一時ほどでなくなった。一時は猫も杓子も有頂天になって、場末のカフェで

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四十年前の袋田の瀑

木暮理太郎

勿来関趾をたずね、鵜子岬に遊び、日和山に登って、漁船に賑う平潟の港内や、暮れ行く太平洋の怒濤を飽かず眺めた後、湾に臨んだ宿屋の楼上に一夜を明かして、翌日仙台からはるばると辿って来た海岸を離れ、小雨そぼふる中を棚倉道に沿うて歩き出した。袋田の瀑を探りたかったからである。 この瀑に就ては『日本名勝地誌』で其壮観は華厳の瀑に優るものがあるとのことを知っていたので、

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四又の百合

宮沢賢治

四又の百合 四又(よまた)の百合(ゆり) 宮沢賢治 「正※知(しょうへんち)はあしたの朝の七時ごろヒームキャの河(かわ)をおわたりになってこの町にいらっしゃるそうだ」 こう言(い)う語(ご)がすきとおった風といっしょにハームキャの城(しろ)の家々にしみわたりました。 みんなはまるで子供(こども)のようにいそいそしてしまいました。なぜなら町の人たちは永(なが)

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四国遍路日記

種田山頭火

四国遍路日記 種田山頭火 十一月一日 晴、行程七里、もみぢ屋という宿に泊る。 ――有明月のうつくしさ。 今朝はいよいよ出発、更始一新、転一歩のたしかな一歩を踏み出さなければならない。 七時出立、徳島へ向う(先夜の苦しさを考え味わいつつ)。 このあたりは水郷である、吉野川の支流がゆるやかに流れ、蘆荻が見わたすかぎり風に靡いている、水に沿うて水を眺めながら歩いて

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四季

槙村浩

春の神様陽気だな 天女の羽や夢御殿 梅、桃、桜、色々の 花を咲かせて楽しんだ なぜ/\こんなに陽気だろ 夏の神様大おこり はげた頭を光らして 春の神様追ひやって 雷さまがおきに入り すきな遊びは夕立だ なぜ/\こんなに怒るだろ 秋の神様やさしいな 風をそよ/\野に送り 七夕さまや天の川 銀のお月さんぬっと出る なぜ/\こんなにやさしいだろ 冬の神様陰気だな

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われらが四季感

佐藤春夫

「ぼくはもう極楽行きは見合はせることにきめたよ」 と或る時、芥川龍之介が、例のいたずらつぽい眼をかがやかしながら、わたくしに話しかけたことがあつた。 「?」これはきつと何かあとにつづくおもしろい言葉があるに違ひないと予想したから、わたくしがあとを期待してゐると、彼は言ふのであつた。 「極楽は四時、気候、温和快適だとかで、季節の変化は無いらしいね。季節の変化の

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四季とその折々

黒島伝治

四季とその折々 黒島傳治 小豆島にいて、たまに高松へ行くと気分の転換があって、胸がすツとする。それほど変化のない日々がこの田舎ではくりかえされている。しかし汽車に乗って丸亀や坂出の方へ行き一日歩きくたぶれて夕方汽船で小豆島へ帰ってくると、やっぱり安息はここにあるという気がしてくる。四季その折々の風物の移り変りと、村の年中行事を、その時々にたのしめるようになっ

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「四季」緒言

滝廉太郎

近来音楽は、著しき進歩発達をなし、歌曲の作世に顕はれたるもの少しとせず、然れども、是等多くは通常音楽の普及伝播を旨とせる学校唱歌にして、之より程度の高きものは極めて少し、其稍高尚なるものに至りては、皆西洋の歌曲を採り、之が歌詞に代ふるに我歌詞を以てし、単に字句の数を割当るに止まるが故に、多くは原曲の妙味を害ふに至る。中には頗る其原曲の声調に合へるものなきにし

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四つの市

片山広子

グレレゴリイ夫人の伝説によると、むかしゲエル人の先住民ダナ人らがアイルランドに渡つて来た時には、大ぞらの空気の中を通つて霧に乗つて来たさうである。ダナ人は北の方から来たと書いてあるが、その北の方に四つの都市があつた。まづ大きな市ファリアス、それから光りかがやくゴリアスとフィニアス、ずうつと南の方にムリアスがあつた。ダナ人はその四つの市から四つの宝を持つて来た

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四年のあいだのこと

久坂葉子

うすねずみいろの毛地のワンピースを着て、私は花束を持っている。今さっき、知合の家へあそびに行き、その庭に一ぱいあふれるように咲いていたスイートピーをすきなだけきらせてもらい、その帰りである。花はむっとした少し鼻につきすぎる位の香りで、それはこいむらさきやうすいピンクや白や各々の色より発散したものが、また一つになって新しく別なものをこしらえ私に投げかけるようだ

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四日白魔 ロンドン危機シリーズ・1

ホワイトフレッド・M

デイリーチャット紙の編集部長がいぶかった。いったい自分は何で会社に居残ったのか。 手元の温度計は摂氏零下一〇度まで下がり、夜明け前に摂氏零下一八度に下がりそうだし、朝刊は、気象記事だけでは埋められない。 さらに、北トレント以北の情報は一切なく、電信と電話が不通とのこと。外は猛吹雪と大雪、すさまじい寒気と静寂に襲われている。 あした一月二十五日の新聞は記事不足

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四日間

ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ

忘れもせぬ、其時味方は森の中を走るのであった。シュッシュッという弾丸の中を落来る小枝をかなぐりかなぐり、山査子の株を縫うように進むのであったが、弾丸は段々烈しくなって、森の前方に何やら赤いものが隠現見える。第一中隊のシードロフという未だ生若い兵が此方の戦線へ紛込でいるから如何してだろう?と忙しい中で閃と其様な事を疑って見たものだ。スルト其奴が矢庭にペタリ尻餠

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四日闇夜 ロンドン危機シリーズ・2

ホワイトフレッド・M

ロンドンおよび英仏海峡の天気予報は乾燥、晴れ、温暖。さらに記事をハックネスが深く読み進むと、欧州全域は概して高気圧が続き、西は気圧が上がり、海は穏やかで、今年この時季にしては格別高温とか。 ハックネスはロンドン大学の理学士、漏らさず読んだ。気象研究が宗旨みたいなものだ。 居間裏の研究室には各種の奇妙な機器があり、太陽光や風圧や空気密度などを測る。長年ハックネ

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四時の変化と関りのない書斎

宮本百合子

四時の変化と関りのない書斎 宮本百合子 特に夏期の書斎としての注文も思い当りません。余り明るくなく近くに樹木が欲しく、静かで空気の流通がよい処が書斎として四時の望みです。私は期節のうつりかわりを自分の書斎に導かない方を寧ろこのみます。四辺の自然が異った眺めを与えてくれる外には。 〔一九二四年七月〕

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まどはしの四月

片山広子

まどはしの四月 片山廣子 その小説はエンチヤンテッド・エプリル(まどはしの四月)といふ題であつたとおぼえてゐる。大正のいつ頃だつたか、もう三十年も前に読んで、題までも殆ど忘れてゐたが、二三日前にふいと思ひ出した。ロンドンで出版されて当時めづらしいほどよく売れた大衆もので、作者の名も今はわすれた。 郊外に住む中流の家庭の主婦が街に買物に出たかへりに、自分の属し

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四月五日

原民喜

四月五日 原民喜 四月五日 山村家から招ばれたので昼から出掛ける。山村家の裏庭には桜が咲いてゐる。縁側にアネモネの鉢が並べてある。静かな家だ。髪の長いよく肥えた人が庭さきの日向に籐椅子を出して、それに腰をかける。 「始めて髪をハイカラにしようと思ふのだからいいやうにしてくれ」とのことだ。何しろよく伸びたものだ、どこかこの人は弱々しいから、もしかすると病気上り

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四月号の創作三つ

平林初之輔

「火星の運河」――江戸川乱歩作。剣術使いがひとりで剣をふり回したり、絵かきが目的なしに線をひいたりするたぐいの、試筆ともいうべきもので、作者自身の「お詫び」言葉のとおりこれはむろん探偵小説ではない。ただ枕の所に大形の天文学書が開いてあって、そこに火星の想像図が描かれていたところなどに探偵小説の型が痕跡をとどめている。サイコアナリシスの実例にはふさわしいもので

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四月の夜

中野鈴子

油気を食べてはいけない アルコールはなめてもいけない つかれることはいけない あんまり話もつづけられない あんまり本もよみつづけられない 手紙を書くことは 返事を要求することになるので手紙も書けない それで 郵便もこない 役場の税金 村の盛金 寄附の金らは 一反の田圃から五俵の純益あるものとして割り出されている 田圃一反から 米七俵実る 雇人の賃金一反につき

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四月馬鹿

織田作之助

四月馬鹿 織田作之助 はしがき 武田さんのことを書く。 ――というこの書出しは、実は武田さんの真似である。 武田さんは外地より帰って間もなく「弥生さん」という題の小説を書いた。その小説の書出しの一行を読んだ時私はどきんとした。 「弥生さんのことを書く」 という書出しであった。 その小説は、外地へ送られる船の中で知り合った人の奥さん(弥生さん)を、作者の武田さ

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四条通附近

上村松園

四条通附近 上村松園 四条柳馬場の角に「金定」という絹糸問屋があって、そこに「おらいさん」というお嫁さんがいた。 眉を落としていたが、いつ見てもその剃りあとが青々としていた。 色の白い、髪の濃い、襟足の長い、なんとも言えない美しい人だった。 あのような美しい、瑞々した青眉の女の人を、わたくしは母以外に識らない。 お菓子屋の「おきしさん」も美しい人であった。面

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四百年後の東京

正岡子規

都会の中央、絶壁屏風の如く、緑滴り水流れ、気清く神静かに、騒人は月をここに賞し、兇漢は罪をここに蔵す、これを現今の御茶の水の光景とす。紅塵万丈の中この一小閑地を残して荒涼たる山間の趣を留む、夫の錙銖を争ふ文明開化なる者に疑ひなき能はざるなり。不折が画く所、未来の神田川、また余輩と感を同じうせし者あるに因るか。図中、三重に橋を架す、中なるは今の御茶の水橋の高さ

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四葉の苜蓿

堀辰雄

夏に先立つて、村の會堂の廣場には辛夷の木に眞白い花が咲く。まだ會堂に閉されてゐて、その花の咲いてゐる間、よくその木のまはりで村の子供たちが日曜日など愉しさうに遊んでゐる。その花が散つて、すつかり青葉になつた頃、その村に夏を過しに來た人々がその會堂に出たりはひつたりしはじめる。 その頃から、こんどは村の古いホテルの裏の塀に沿つて、村で一番美しいと云はれるさるす

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四谷怪談

田中貢太郎

四谷怪談 田中貢太郎 元禄年間のことであった。四谷左門殿町に御先手組の同心を勤めている田宮又左衛門と云う者が住んでいた。その又左衛門は平生眼が悪くて勤めに不自由をするところから女のお岩に婿養子をして隠居したいと思っていると、そのお岩は疱瘡に罹って顔は皮が剥けて渋紙を張ったようになり、右の眼に星が出来、髪も縮れて醜い女となった。 それはお岩が二十一の春のことで

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