Vol. 2May 2026

Buku

Perpustakaan pengetahuan dunia domain publik

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疑問の金塊

海野十三

疑問の金塊 海野十三 尾行者 タバコ屋の前まで来ると、私は色硝子の輝く小窓から、チェリーを買った。 一本を口に銜えて、燐寸の火を近づけながら窓硝子の上に注目すると、向いの洋菓子店の明るい飾窓がうつっていた。その飾窓の傍には、二人連の変な男が、肩と肩とを並べて身動きもせず、こっちをジーッと睨んでいるのが見えた。 「何処までも、尾けてくる気だナ」 私はムラムラと

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疑惑

南部修太郎

疑惑 南部修太郎 ――水野敬三より妻の藤子に宛てた手記―― 昨日、宵の内から降り出したしめやかな秋雨が、今日も硝子戸の外にけぶつてゐる。F――川の川音も高い。町を挾んだ丘の斜面の黄ばんだ木の葉の色も急に濃くなつたやうだ。J――峠から海の方へ展がる山坡に沿うて、雨を含んだ灰色の雲が躍るやうに千切れては飛び、飛んでは千切れて行く。海の沖には風が騷いでゐるのかも知

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疑惑の城

牧野信一

――嘘をつくな、試みに君の手鏡を執りあげて見給へ、君の容色は日増に蒼ざめてゆくではないか、吾等は宇宙の真理のために、そしてまた君が若し芸術に志すならば、芸術のために蒼ざめるべきではないか――。 こんな風な調子の手紙を三枚四枚五枚と書いてゆくうちに夜は白々と明けてきた。サンタ・マリアの暦をはぐと、四月の十二日(一九三三)であつた。 暦の端には、 「聖女ローザ童

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疑獄元兇

宮沢賢治

疑獄元兇 宮沢賢治 とにかく向ふは検事の立場、 今の会釈は悪くない。勲績のある上長として、盛名のある君子として、礼を尽した態度であった。 わたしの方も声音から、動作一般自然であった。或ひはかういふ調子でもって、政治の実といふものを、容易に了解するかも知れん。それならわたしは、畢竟党から撰ばれて、若手検事の腕利きといふ この青年を対告に、社会一般教育のため、こ

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新美南吉

兄さんの松吉と、弟の杉作と、年も一つ違ひでしたが、たいへんよく似てゐました。おでこの頭が顔の割に大きく、笑ふと、ひたひに猿のやうにしわがよるところ、走るとき両方の手を開いてしまふところも同じでした。 「二人、ちつとも違はないね。」 とよく人がいひました。さうすると、兄さんの松吉が、口をとがらして、虫くひ歯のかけたところから唾を吹きとばしながら、いふのでした。

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疫病神

田中貢太郎

長谷川時雨女史の実験談であるが、女史が佃島にいた比、令妹の春子さんが腸チブスに罹って離屋の二階に寝ていたので、その枕頭につきっきりで看護していた。 それは夜であったが、その時病人がうなされていた。女史は何の気なしに床の間の方へ眼をやった。そこの床の間の隅に十五六ぐらいの少年がいて、それが腕ぐみしてじっと蹲んでいたが、その髪の毛は焦げあがったようで、顔は細長い

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疲労

国木田独歩

疲労 国木田独歩 京橋区三十間堀に大来館という宿屋がある、まず上等の部類で客はみな紳士紳商、電話は客用と店用と二種かけているくらいで、年じゅう十二三人から三十人までの客があるとの事。 ある年の五月半ばごろである。帳場にすわっておる番頭の一人が通りがかりの女中を呼んで、 「お清さん、これを大森さんのとこへ持っていって、このかたが先ほど見えましたがお留守だと言っ

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疲れやつれた美しい顔

中原中也

疲れやつれた美しい顔よ、 私はおまへを愛す。 さうあるべきがよかつたかも知れない多くの元気な顔たちの中に、 私は容易におまへを見付ける。 それはもう、疲れしぼみ、 悔とさびしい微笑としか持つてはをらぬけれど、 それは此の世の親しみのかずかずが、 縺れ合ひ、香となつて籠る壺なんだ。 そこに此の世の喜びの話や悲しみの話は、 彼のためには大きすぎる声で語られ、 彼

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疳の虫

牧野信一

必ず九時迄に来ると、云つて置きながら、十五分も過ぎてゐるのに、未だ叔父は来なかつた。僕は堪らなく焦れたく思ひながらも、叔父の来ることを待つてゐるには違ひなかつたから、頭の中で到頭叔父が大変に憎らしい者になつてしまつた。 好い天気の日曜の朝である。白い雲一つ見当らない。叔父と遊びに行く約束があつたから、僕は一時間程前に三人の友達が誘ひに来たけれど、断つて了つた

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小林多喜二

疵 小林多喜二 「モップル」(赤色救援会)が、「班」組織によって、地域別に工場の中に直接に根を下し、大衆的基礎の上にその拡大強化をはかっている。 ××地区の第××班では、その班会を開くたびに、一人二人とメンバーが殖えて行った。新しいメンバーがはいってくると、簡単な自己紹介があった。――ある時、四十位の女の人が新しくはいってきた。班の責任者が、 「中山さんのお

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疾中

宮沢賢治

だめでせう とまりませんな がぶがぶ湧いてゐるですからな ゆふべからねむらず血も出つづけなもんですから そこらは青くしんしんとして どうも間もなく死にさうです けれどもなんといゝ風でせう もう清明が近いので あんなに青ぞらからもりあがって湧くやうに きれいな風が来るですな もみぢの嫩芽と毛のやうな花に 秋草のやうな波をたて 焼痕のある藺草のむしろも青いです

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正岡子規

○明治廿八年五月大連湾より帰りの船の中で、何だか労れたようであったから下等室で寝て居たらば、鱶が居る、早く来いと我名を呼ぶ者があるので、はね起きて急ぎ甲板へ上った。甲板に上り著くと同時に痰が出たから船端の水の流れて居る処へ何心なく吐くと痰ではなかった、血であった。それに驚いて、鱶を一目見るや否や梯子を下りて来て、自分の行李から用意の薬を取り出し、それを袋のま

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病中記

寺田寅彦

病中記 寺田寅彦 大正八年十二月五日 晴 金曜 二、三日前から風心持であったが、前日は午前に気象と物理の講義があったから出勤した。午過ぎから帰るつもりでいたが案外気分がいいし天気もいいから白木屋の俳画展覧会を見に行ったらもうすんでいた。それから丸善へ行って二冊ばかり教室へ届けさせるようにした。胃の工合があまりよくなかったが気分がいいので乗合自動車で銀座へ行っ

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病む子の祭

新美南吉

病む子の祭 新美南吉 母 長男 長女 次男 三男(病気の子) 岡のふもとの竹やぶにかこまれた小さい家。 母親が子どもたちに祭の晴着をきせている。 花火の音。笛、太鼓のゆるやかな、かすかなはやし。 母   よごすんじゃないよ。いつもの着物とちがうんだからね、土塀にもたれたり、土いじりしちゃいけないんだよ。それから、袖ではなをふいたりしないでね。ふところから鼻紙

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病室の幻影

豊島与志雄

病室の幻影 豊島与志雄 広い病室。一方の壁に沿って寝台があり、窓の方を枕に一人の患者が眠っている。少し離れて、二脚の椅子が窓際に並んでいる。他方の壁に沿って、入口の扉に近く、床に二枚の畳敷があり、年若な女と看護婦とが、布団を並べ小さくなって眠っている。次に大きな瀬戸の火鉢があって、洗面器がかかって湯気が立っている。次に窓に片寄せて小形の卓子があり、花籠や果物

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病室の花

寺田寅彦

病室の花 寺田寅彦 発病する四五日前、三越へ行ったついでに、ベコニアの小さい鉢を一つ買って来た。書斎の机の上へ書架と並べて置いて、毎夜電燈の光でながめながら、暇があったらこれも一つ写生しておきたいと思っていたが、つい果たさずに入院するようになった。 入院の日に妻がいろいろの道具といっしょにこの鉢を持って来た、そして寝台のすぐ横にある大理石を張った薬びん台の上

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病床生活からの一発見

萩原朔太郎

病床生活からの一発見 病床生活からの一発見 萩原朔太郎 病気といふものは、私にとつて休息のやうに思はれる。健康の時は、絶えず何かしら心に鞭うたれる衝動を感じてゐる。不断に苛々して、何か為ようと思ひ、しかも何一つ出来ない腑甲斐なさを感じてゐる。毎日毎日、私は為すべき無限の負債を背負つてる。何事かを、人生に仕事しなければならないのだ。私が廃人であり、穀つぶしでな

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病牀瑣事

正岡子規

病牀瑣事 正岡子規 ○我ながらなが/\しき病に飽きはてゝ、つれ/″\のやるかたなさに書読み物書くを人は我を善く勉めたりといふ。日頃書などすさめぬ人も長き病の牀には好みて小説伝記を読み、あるはてにはの合はぬ歌発句をひねくりなどするものなり。況して一たび行きかゝりし斯道、これに離れよといはんは死ねといはんの直接なるに如かず。 ○をとゝしの頃は三十八度以上の体熱あ

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病牀苦語

正岡子規

○この頃は痛さで身動きも出来ず煩悶の余り精神も常に穏やかならんので、毎日二、三服の痲痺剤を飲んで、それでようよう暫時の痲痺的愉快を取って居るような次第である。考え事などは少しも出来ず、新聞をよんでも頭脳が乱れて来るという始末で、書くことは勿論しゃべることさえ順序が立たんのである。それでもだまって居るのは尚更苦しくて日の暮しようがないので、きょうは少ししゃべっ

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病牀譫語

正岡子規

◎政治家とならんか、文学者とならんか、我は文学者を択ばん。政治家の技能はその局に当りその地位を得るに非ざれば見れず。その局に当りその地位を得るは一半は材能により一半は年歯による。たとひ材能の衆に超ゆるあるも年歯の少きは遂に奈何ともするなきなり。英のピツトの例は再びあるべからず。一般の例に拠るに少くも四十歳を越えざれば天下を動かす能はず。病躯蠢々命、旦夕を測ら

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病状

牧野信一

病状 牧野信一 凍てついた寒い夜がつゞいてゐた。 私は、十銭メートルの瓦斯ストーヴに銀貨を投げ込みながら、空の白むまで机の前に坐りつゞけたが、一行の言葉も浮ばぬ夜ばかりだつた。 「いつでも関はぬから起してお呉れ。」 細君は明方の私の食事については、パンや果物の用意をとゝのへて、机の傍らにすやすやと眠つてゐるのだが、稍ともすると私は気の弱い食客の心地に襲はれた

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病院の夜明けの物音

寺田寅彦

病院の夜明けの物音 寺田寅彦 朝早く目がさめるともうなかなか二度とは寝つかれない。この病院の夜はあまりに静かである。二つの時計――その一つは小形の置き時計で、右側の壁にくっつけた戸棚の上にある、もう一つは懐中時計でベットの頭の手すりにつるしてある――この二つの時計の秒を刻む音と、足もとのほうから聞こえて来る付添看護婦の静かな寝息のほかには何もない。ただあまり

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