Vol. 2May 2026

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空飛ぶ円盤

中谷宇吉郎

空飛ぶ円盤が初めて報告されたのは、一九四七年六月二十四日のことで、もう八年も前のことである。 この日、アイダホ州のアーノルドという実業家が、自家用飛行機で、ワシントン州から帰って来た。その途中レニア山の方向に、九つの光った円盤が空中に乱舞しているのを目撃した。それいらいこの空飛ぶ円盤は「二十世紀の七不思議」の第一位を占め、人気を独占してきた形である。 初め数

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空飛ぶ悪魔 ――機上から投下された手記――

酒井嘉七

「ボーイング単座機の失踪。 坂譲次氏は愛機、四十――年型ボーイング機J・B3A5を駆って、昨十三日午後十時、大阪国際飛行場を離陸したまま、行方不明になった。 同機は最高速力毎時三百五十哩、航続時間二十五時間の優秀機で、本日未明、金華山沖を東に向って飛行する同機を認めたとの報あるも、真偽不明……」 明日の新聞には、こうした記事が掲載されるであろう。今午後九時二

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突然に

中野鈴子

突然に 真夜中の一時五十五分に呼吸を断たれた 五十一年を生きた人 あなたは生まれた 比類ないものを持って 満ちあふれた輝き あなたは出て立って行った じゅうたんを蹴って 素足のまま むき出した心臓を 荒風の中に 額を打つ嵐の中へ…… 一すじに 一すじに あなたの剣は 敵の胸板にキリキリと深く あなたの火の言葉は 目つぶしの灰となって彼等の上に…… あなたの選

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突貫

島崎藤村

……………………………………………………………………………………………………………………………………………私は今、ある試みを思ひ立つて居る。もし斯の仕事が思ふやうに捗取つたら、いづれそれを持つて山を下りようと思ふ。けれども斯のことは未だ誰にも言はずにある。 今日まで私は酷だ都合の好いことを考へて居た。自分の目的は目的として置いて、衣食の道は別にするやうな方針

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突貫紀行

幸田露伴

突貫紀行 幸田露伴 身には疾あり、胸には愁あり、悪因縁は逐えども去らず、未来に楽しき到着点の認めらるるなく、目前に痛き刺激物あり、慾あれども銭なく、望みあれども縁遠し、よし突貫してこの逆境を出でむと決したり。五六枚の衣を売り、一行李の書を典し、我を愛する人二三にのみ別をつげて忽然出発す。時まさに明治二十年八月二十五日午前九時なり。桃内を過ぐる頃、馬上にて、

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窃む女

黒島伝治

窃む女 黒島傳治 一 子供が一人ぐらいの時はまだいゝが、二人三人となると、育てるのがなかなか容易でない。子供のほしがるものは親として出来るだけ与えたい。お菓子、おもちゃ、帽子、三輪車――この頃は田舎でも三輪車が流行っている。女の子供は、少し大きくなると着物に好みが出来てくる。一ツ身や、四ツ身を着ている頃はまだいゝ。しかし四ツ身から本身に変る時には、拵えてやっ

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鷹野つぎ

窓というものが、これほどたのしいものとはまだ知らなかった。それも私が枕をならべて病んでいた私の少年を先立たせ、やがて一ヶ月後同じこの病院内に転室した日以来のことである。 私の病児と過した半年間は、母子とも枕があがらなかった。頭上に開いていた北窓には、窓の閾まで日光を遮断する、樺色の日覆が来る日も来る日も拡げた蝙蝠の片羽のかたちで垂れさがっていた。殊に秋の末か

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堀辰雄

窓 堀辰雄 或る秋の午後、私は、小さな沼がそれを町から完全に隔離している、O夫人の別荘を訪れたのであった。 その別荘に達するには、沼のまわりを迂回している一本の小径によるほかはないので、その建物が沼に落しているその影とともに、たえず私の目の先にありながら、私はなかなかそれに達することが出来なかった。私が歩きながら何時のまにか夢見心地になっていたのは、しかしそ

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古賀春江

沢山な窓のある家、 一つ一つの窓から顔が出てゐる。 顔には地図が描いてある。 みんなの地図が読める、 鳥籠も描いてある、花もあり、コップも、望遠鏡も、並ぶ顔、水筒、 霧、黎明とパイプも確実につながつてお互の陰翳を持つてゐる。 痙攣する避雷針の窓からまた一つの顔を見ないか、 揺れる、揺れる、椅子が、星が、 黒い夜の絵具は沈黙して語らない――その後の顔等に就いて

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ボードレールシャルル・ピエール

開いた窓の外からのぞき込む人は決して閉ざされた窓を眺める人ほど多くのものを見るものではない。蝋燭の火に照らされた窓にもまして深い、神秘的な、豊かな、陰鬱な、人の眼を奪ふやうなものがまたとあらうか。日光の下で人が見ることの出来るものは、窓ガラスの内側で行はれることに比べれば常に興味の少ないものである。此の黒い、もしくは明るい空の中で、生命が生活し、生命が夢み、

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堀辰雄

或る秋の午後、私は、小さな沼がそれを町から完全に隔離してゐる、O夫人の別莊を訪れたのであつた。 その別莊に達するには、沼のまはりを迂囘してゐる一本の小徑によるほかはないので、その建物が沼に落してゐるその影とともに、たえず私の目の先にありながら、私はなかなかそれに達することが出來なかつた。私が歩きながら何時のまにか夢見心地になつてゐたのは、しかしそのせゐばかり

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デパートの窓

新美南吉

デパートの窓の、 カーテンがするりとあいた。 時計がカン/\六つなる。 デパートの窓から、 パンをやくにほひがながれた。 時計がカン/\八つなる。 デパートの窓に、 パラソルの花がひらいた。 時計がカン/\十もなる。 デパートの窓に、 ソーダ水を、三人すつた。 時計がカン/\十二なる。 デパートの窓から、 カン/\帽子落とした。 時計がカン/\二つなる。 デ

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窓の下を通った男

小川未明

毎日のように、村の方から、町へ出ていく乞食がありました。女房もなければ、また子供もない、まったくひとりぽっちの、人間のように思われたのであります。 その男は、もういいかげんに年をとっていましたから、働こうとしても働けず、どうにもすることができなかった、果てのことと思われました。 町へいけば、そこにはたくさんの人間が住んでいるから、中には、自分の身の上に同情を

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窓の内と外

小川未明

白と黒の、ぶちのかわいらしい子ねこが、洋服屋の飾り窓のうちに、いつもひなたぼっこをしていました。そのころ、政一は、まだ学校へ上がりたてであった。その店の前を通るたびに、おもちゃのねこがおいてあると思っていました。ところが、ある日、そのねこが起き上がって、脊のびをしたので、 「おや、生きているのだな。」と、びっくりしました。 ねこを好きな政一は、それから、この

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窓にさす影

豊島与志雄

窓にさす影 豊島与志雄 祖母の病気、その臨終、葬式、初七日と、あわただしい日ばかり続く。私はまだ女学生のこととて、責任ある仕事は持たなかったが、いろいろなことをお手伝いしなければならなかった。その合間に、ほっと息をつくと、窓の方が気にかかるのだった。 窓というものは、たいてい同じようなもので、特別に変ったのは殆んどない。私の室にある窓もごく普通なもの。南向き

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ガラス窓の河骨

小川未明

ある草花屋の店さきに、河骨が、小さな鉢の中にはいって、ガラス戸の内側にかざられていました。街の中で、こうした片いなかの水辺にあるような緑色の草を見るのは、めずらしいといわなければなりません。 しかし、河骨にとっては、こうして置かれることは、迷或このうえもなかったのです。すがすがした空気と、自由の世界にみなぎる、日光を受けることから、さえぎられて、毎日、ここで

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窓を開く

桜間中庸

これが十二月の空であらうか。風は北極に流れて行つたらしい。 この空のあをさはどうだ。 みの虫みの虫。みの虫だと思つたのはアカシヤの實の莢であつた。 みの虫みの虫、風に吹かれてみのを着たまま飛んでつたとうたつた童謠詩人を思ひだす。 家の側の坂道を子供が三輪車を走らせてゐる。その妹が後から追かける。二人ともただもうわけのわからない感興の聲を青空に投げつけながら。

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窪川稲子のこと

宮本百合子

窪川稲子のこと 宮本百合子 窪川稲子に私がはじめて会ったのは、多分私がもとの日本プロレタリア作家同盟にはいった一九三〇年の押しつまってからのことであったと思う。私はその頃本郷の下宿にいて、そこで会ったように思う。最初の印象は、今日もう思い出せなくなってしまっている。そのときも彼女らしく、どこといって変に目立つようなところを外見にもっていなかったのであったろう

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窮死

国木田独歩

窮死 国木田独歩 九段坂の最寄にけちなめし屋がある。春の末の夕暮れに一人の男が大儀そうに敷居をまたげた。すでに三人の客がある。まだランプをつけないので薄暗い土間に居並ぶ人影もおぼろである。 先客の三人も今来た一人も、みな土方か立ちんぼうぐらいのごく下等な労働者である。よほど都合のいい日でないと白馬もろくろくは飲めない仲間らしい。けれどもせんの三人は、いくらか

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窮理日記

寺田寅彦

十日 動物教室の窓の下を通ると今洗ったらしい色々の骸骨がばらばらに笊へ入れて干してある。秋の蠅が二、三羽止ってやや寒そうに羽根を動かしている。 十一日 垣にぶら下がっていた南瓜がいつの間にか垂れ落ちて水引の花へ尻をすえている。我等が祖先のニュートンはいかにエライ者であったかと云う事を考えると隣の車井戸の屋根でアホーと鴉が鳴いた。 十二日 傘を竪にさす。雨は横

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窯を築いて知り得たこと

北大路魯山人

もしそれ技術的の方面、製作上の道程などを子細に考えるならば、それは殆ど数知れぬまでに未知の世界を知ったと言うべきである。 しかし、左様なことは余りにも専門的に渉る。で、ここで一般的の話として持出すことはむしろ控えるが至当であるかも知れない。ゆえにそれらは略して、その他の所感を述べることにする。 個人作家の権威――先ず第一に自作と銘を打って出す個人作品の権威に

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竇氏

田中貢太郎

竇氏 田中貢太郎 不意に陽がかげって頭の上へ覆をせられたような気がするので、南三復は騎っている驢から落ちないように注意しながら空を見た。空には灰汁をぶちまけたような雲がひろがって、それを地にして真黒な龍のような、また見ようによっては大蝙蝠のような雲がその中に飛び立つように動いていた。そのころの日和癖になっている驟雨がまた来そうであった。 南は新しい長裾を濡ら

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竈の中の顔

田中貢太郎

「今日も負かしてやろうか」 相場三左衛門はそう云ってから、碁盤を中にして己と向いあっている温泉宿の主翁の顔を見て笑った。 「昨日は、あまり口惜しゅうございましたから、睡らず工夫しました、今日はそう負けはいたしません」 主翁は淋しそうに笑って手にした石をおろしはじめた。 「そうか、それは油断をせられないな、小敵と見て侮ることなかれ、か」 三左衛門はあっちこっち

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立すくむ

今野大力

私はいろいろな過去の日記や書きちらしや、あちこちの新聞雑誌へ発表したものや、その折々の切抜や、自分を育ててゆくための材料を古い家に置きっきりだった、転々と私は歩いた、私はそれらに目を通さなかった、私の過去は忘れ去られつつあった 私は常にぽっかりと新らしい場所へ新らしい考えの中へ出て、そこから短かいものだけを、しかも又その場その場へ置いて歩いた、だから私は何年

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