行為の価値
宮本百合子
行為の価値 宮本百合子 オーストリイのウィーン市のはずれに公園のように美しい墓地がある。そこに、ベートーヴェンの墓やモーツァルトの墓があった。偉大な音楽家の生涯にふさわしく、心をこめて意匠された墓が、晩春の花にかこまれてあるのを見た。 ポーランドのワルシャワ市はポーランド人が自由を求めて幾度の行進した町だが、そこの公園に美しいショパンの記念像がある。大理石の
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宮本百合子
行為の価値 宮本百合子 オーストリイのウィーン市のはずれに公園のように美しい墓地がある。そこに、ベートーヴェンの墓やモーツァルトの墓があった。偉大な音楽家の生涯にふさわしく、心をこめて意匠された墓が、晩春の花にかこまれてあるのを見た。 ポーランドのワルシャワ市はポーランド人が自由を求めて幾度の行進した町だが、そこの公園に美しいショパンの記念像がある。大理石の
田山花袋
四月から、何処に行つても面白い。海も好い。山も好い。あの温かい風が吹いて来ると、家の中にじつとしてゐられないやうな気がする。此処に少し行つて見たいところを書いて見る。 五月の中頃あたりに、那須の湯元に行つた時の心持は忘れられない。あそこは冬の長い間眠つてゐて、やつとその時分になつて眼を覚したといふやうな感じのするところで、伊香保などよりもぐつと荒涼としてゐる
竹内浩三
白い小学校の運動場で おれたちはひるやすみした 枝のないポプラの列の影がながい ポプラの枝のきれたところに 肋木の奇妙なオブジェに 赤い帽子に黒い服の ガラスのような子供たちが 流れくずれて かちどきをあげて おれたちの眼をいたくさせる 日の丸が上っている 校舎からオルガンがシャボン玉みたいにはじけてくる おれのよごれた手は ヂストマみたいに 飯盒の底をはい
竹内浩三
あの山を越えるとき おれたちは機関車のように 蒸気ばんでおった だまりこんで がつんがつんと あるいておった 急に風がきて 白い雪のかたまりを なげてよこした 水筒の水は 口の中をガラスのように刺した あの山を越えるとき おれたちは焼ける樟樹であった いま あの山は まっ黒で その上に ぎりぎりと オリオン星がかがやいている じっとこうして背嚢にもたれて 地
坂口安吾
行雲流水 坂口安吾 「和尚さん。大変でございます」 と云って飛びこんできたのは、お寺の向いの漬物屋のオカミサンであった。 「何が大変だ」 「ウチの吾吉の野郎が女に惚れやがったんですよ。その女というのが、お寺の裏のお尻をヒッパタかれたあのパンスケじゃありませんか。情けないことになりやがったもんですよ。私もね、吾吉の野郎のお尻をヒッパタいてくれようかと思いました
小泉八雲
屋敷の庭で死刑が執行される事にきまった。その罪人は引き出された。今も読者が日本庭園で見られるような飛石の一列が真中にある、砂を敷いた広場へ坐らされた。彼は後ろ手に縛られていた。家来は手桶の水と小石の満ちた俵を運んだ。それから坐っている男のまわりに俵をつめた、――動けないようにくさびどめにしておいた。主人が来て、その準備を見た。満足らしく、何も云わなかった。
桜間中庸
賣店の女の顏の明るさはアスフアルト敷くこの街の顏 行ずりに見し外人の瞳かも土曜の夕のそゞろ歩きに 客を呼ぶ馬車屋の笛のあわれさや逗子驛頭の冬のたそがれ たたき賣るバナナ屋の聲寒寒と宵のしゞまを破りて流る ●図書カード
牧野信一
明るいうちは風があつたが、陽が落ちると一処に綺麗に凪いで、街は夢のやうにうつとりとした。――円タクの運転手が、今年の冬は実に長かつた! と力を込めて話しかけた後に、然しまた、これからは事故が多くなるので、浮々しては居られない、事故では自転車が一番多い、居眠りをしながら走つてゐるのがあるのだから……。 「だが、今夜のやうな陽気だと、吾々もつい眠くなりさうだ。気
今野大力
銀座の通りに畑が出来て 緑青々とした麦畑が出来ようと 空想していた友よ 一きれのパンをむしって乞食の子に与え 慈善をしたつもりの青年があった。 乞食をするものは 楽しみなのである 何と詩人めいた仕事であるよ 乞食をしていると 皆がお金をお菓子を呉れようとして呉れてゆくのである。 乞食のいない街は 淋しく又殺風景極まっているであろう。 ●図書カード
坂口安吾
「街はふるさと」作者の言葉 坂口安吾 さわやかで、明るい、静かな物語をかこう。 この物語の中の人たちは、金と女、愛と憎しみ、罪や汚れに困りぬいている。泥沼へおちてぬけでられない男もいるし、死に場所をさがす女もいる。誰か死ぬかも知れない。みんなの負うている宿命は暗いが、それは人間全部のものだろう。 街にはザワザワと無数の跫音がむれている。泥棒の跫音も、パンパン
竹久夢二
街の子 竹久夢二 それは、土曜日の晩でした。 春太郎は風呂屋から飛んで帰りました。春太郎が、湯から上って着物をきていると、そこの壁の上にジャッキイ・クウガンが、ヴァイオリンを持って、街を歩いている絵をかいた、大きなポスターが、そこにかかっているのです。 十二月一日より ジャッキイ・クウガン 街の子 キネマ館にて と書いてあるのです。それを見た春太郎は、大急ぎ
今野大力
街の子は今日も遊んでいた そしてふと子供の一人が大声で言った 「やあい キョウサントウ!」 いい声だそしていい言葉だ 空間は完全にこの声に貫かれた 「やあい キョウサントウ!」 鬼ごっこで仲間の一人が捕ったので思い出したこの言葉 だが、これはただの言葉でない、 街の子が言うほどの遊びながら呼ぶほどの 捕まったので思い出したほどの言葉なれど この時代にはこの言
豊島与志雄
街の少年 豊島与志雄 一 港というものは、遠く海上を旅する人々の休み場所、停車場というものは、陸上を往き来する人々の休み場所、どちらもにぎやかなものです。その港と停車場とがいっしょに集まると、さらににぎやかでおもしろいものです。 インドのある都会の、港と停車場をむすびつける広場でのことです。港には毎日、船がではいりします。停車場には毎時間、汽車がではいりしま
小川未明
盲目の父親の手を引いて、十二、三歳のあわれな少年は、日暮れ方になると、どこからかにぎやかな街の方へやってきました。 父親は、手にバイオリンを持っていました。二人は、とある銀行の前へくると歩みをとめました。そこは、石畳になっていて、昼間は、建物の中へはいったり、出たりする人々の足音が鳴るのであったが、夜になると、大きな扉は閉まって、しんとして、ちょうど眠った魔
佐左木俊郎
街底の熔鉱炉 佐左木俊郎 一 房枝の興奮は彼女の顔を蒼白にしていた。こんなことは彼女にとって本当に初めてであった。その出張先が自分の家と同じ露地の中だなんて。彼女は近所の侮蔑的な眼が恐ろしかった。しかもそれが同じ軒並みのすぐ先なのだから。彼女はすぐそのまま自分の家に帰って行く気はしなかった。彼女は日頃から親しくしている小母さんの家へ裏口から這入った。小母さん
原民喜
相手の声がコックだったので彼女は自分の声に潤ひと弾みとを加へた。その方が料理に念を入れて来るだらうし、――マネージャー達だって私の声を聴いてゐるのだから――さあ、もっとだらだら喋ってやらう。 ――ちょっと、ポテトは狐色に焼くのよ、え、解った? 卵は二つね、卵、あんまり焦さないでね、いいこと? モシモシ、ええ、卵よ、黄味を崩したりなんかしちゃ嫌よ。ちょっとそれ
ポーエドガー・アラン
サイレーンがどんな歌を歌ったか、またアキリースが女たちの間に身を隠したときどんな名を名のったかは、難問ではあるが、みなみな推量しかねることではない。 トマス・ブラウン卿(1) 分析的なものとして論じられている精神の諸作用は、実は、ほとんど分析を許さぬものなのである。ただ結果から見て、それらを感知するにすぎない。そのなかでもわかっていることは、精神の諸作用を過
桜間中庸
見てたよ 窓からじつと 遠い街の灯 ほらね お星樣の下の空 ぼーつと明かつたよ そしてね お星樣うすかつた 死んでるのあつたよ 知つてる あの遠い街に いゝこと うんとあるんだ ●図書カード
牧逸馬
ホテル・アムステルダムの女主人セレスティンは、三階から駈け降りて来た給仕人の只ならぬ様子にぎょっとして、玄関わきの帳場から出て来た。 巴里人らしい早口で、 「何をあわてているんです、ポウル」 給仕人のポウルは、これも巴里人らしく鷹揚に眼を円くして、 「三階の十四号室へ朝飯を運んで行ったんですが、扉が固く閉まっていて、いくら叩戸しても返事がないんです」 「三階
小川未明
たま/\書斎から、歩を街頭に移すと、いまさら、都会の活動に驚かされるのであります。こちらの側から、あちらの側に行くことすら、容易ならざる冒険であって時には、自分に不可能であると感じさせる程、自動車や、自転車や電車がしっきりなしに相ついで、往来しているのであります。 これを見るものは、誰しも、大都会に対して、その偉なる外観に歎賞の声を発せぬものはなかろうと思い
折口信夫
戦災死と言ふ語は、侘しい語である。積る思ひを遂げることなく過ぎ行く、といふ義が伴ふとすれば、此ほどやる瀬ないことはない。だが、国難に殉じたと言ふ、一部聯想の悲痛なものがあつて、その側からは、我が傷ましい街衢の戦死者を、纔かに弔ふに足る思ひがある。中村魁車を憶ふ場合、殊にこの語があつて、吾々の傷む心が、幾分でも軽くなるのはせめてもの気がする。 大阪に第一次戦災
牧野信一
郊外に間借りをしてゐた森野が或る夕方ステツキをグル/\回しながら散歩してゐると、停車場のちかくで、ひとりの美しい婦人に呼びかけられた。 「……誰方でしたかしら?」 森野はそんな婦人に心あたりもなかつたので、思はずさう訊き返さうとした時、 「あゝ、服部さんの奥さんでしたね。」 と気づいた。 「まあ、もうお忘れになつたの?」 「……いゝえ、あの……」 まさか、急
竹内浩三
カアテンのかかったガラス戸の外で 郊外電車のスパァクが お月さんのウィンクみたいだ 大きなどんぶりを抱くようにして ぼくは食事をする 麦御飯の湯気に素直な咳を鳴らし どぶどぶと豚汁をすする いつくしみ深い沢庵の色よ おごそかに歯の間に鳴りひびく おや 外は雨になったようですね もう つゆの季節なんですか ●図書カード
佐左木俊郎
街頭の偽映鏡 佐左木俊郎 1 偽映鏡が舗道に向かって、街頭の風景をおそろしく誇張していた。 青白い顔の若い男が三、四人の者に、青い作業服の腕を掴まれて立っていた。その傍で、商人風の背の小さな男が鼻血を拭ってもらっていた。 「喧嘩か?」 その周囲に人々が集まりだした。 「何かあったんですか?」 偽映鏡の中に、無数の顔が歪みだした。 「喧嘩したんですね」 「いや