Chapter 1 of 10

麗姫

惟ふに、描ける美人は、活ける醜女よりも可也。傳へ聞く、漢の武帝の宮人麗娟、年はじめて十四。玉の膚艷やかにして皓く、且つ澤ふ。たきもしめざる蘭麝おのづから薫りて、其の行くや蝶相飛べり。蒲柳纖弱、羅綺にだも勝へ難し。麗娟常に身の何處にも瓔珞を挂くるを好まず。これ袂を拂ふに當りて、其の柔かなる膚に珠の觸れて、痕を留めむことを恐れてなり。知るべし、今の世に徒に指環の多きを欲すると、聊か其の抱負を異にするものあることを。

麗娟宮中に歌ふ時は、當代の才人李延年ありて是に和す。かの長生殿裡日月のおそき處、ともに風の曲を唱するに當りてや、庭前颯と風興り、花ひら/\と飜ること、恰も霏々として雪の散るが如くなりしとぞ。

此の姫また毎に琥珀を以て佩として、襲衣の裡に人知れず包みて緊む。立居其の度になよやかなる玉の骨、一つ/\琴の絲の如く微妙の響を作して、聞くものの血を刺し、肉を碎かしめき。

女子粧はば寧ろ恁の如きを以て會心の事とせん。美顏術に到りては抑々末也。

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