Chapter 1 of 9

「親分、あつしのところへ、居候が來ましたよ」

八五郎がまた、妙な報告を持つて來ました。六月のある朝、無風の薄曇り、今日もまた、うんと暑くなりさうな日和です。

「良い年をしてみつともない。何處へ居候に行くんだ」

單衣の尻を端折つて、三文朝顏の世話を燒き乍ら、平次は氣のない返事をして居ります。素足に冷たい土の感觸、こいつはまた、滅法良い心持です。

「あつしが居候に行くんぢやありませんよ。あつしが居候を置いたんで、へツ、大したものでせう」

八五郎は相變らずのお先煙草、大して極りも惡がらずに、縁側の上に大胡坐をかいて、平次の作業を眺めて居るのでした。

「お前が居候を置いた。そいつは豪氣だな。一人置くも二人置くも、大した違ひはあるまいから、序に俺も居候に置いてくれないか。つく/″\十手捕繩の御奉公がいやになつたよ」

「置いても構ひませんがね。姐さんはどうなさるんで?」

「あ、成程、其處までは考へなかつたよ」

斯う言つた平次と八五郎です。御用がヒマで/\、仕樣がない此頃です。

「尤も、あつしのところの居候は女の子だから、少しは役に立ちますよ。煙草も買つてくれるし、使ひ走りもしてくれるし、頼めばお酌もしてくれる」

「頼まなきや、お前の手酌を眺めてゐるのか。押掛け嫁にしちや、少し我儘が過ぎるやうだな」

「へ、ま、そんなことで」

「いやにニヤニヤするぢやないか。何處の店ざらしで、名は何んといふ、年は幾つだ」

「店ざらしなんかぢやありません。枝からもぎ立ての、桃のやうな小娘で、名はお信乃、可愛らしい名でせう」

「年は?」

「少し若い。數へて十三」

「何んだ、まるつ切りのねんねぢやないか。俺はまた、羅生門河岸から轉げ込んだ、膏藥だらけの年明けかと思つて、宜い加減膽をつぶしたよ。年明けの掟は二十七だが、あすこはうんと、お飾りのサバを讀んで、どうかすると男厄も過ぎたのが居るんだつてね。氣をつけた方が宜いぜ」

「そんな化けさうなのに掛り合ひませんよ。あつしを頼つて轉げ込んだのは、お大名の落し胤のやうな娘で、お十三、まだお手玉で遊んでゐますよ。いや、その可愛らしいといふことは――」

八五郎は眼を細くするのです。

「何んだつてまた、そんな娘を、お前見たいな者に預けたんだ」

「お前見たいな――は氣になりますね。これでも、向柳原へ行くと、町内一番の人氣者で」

「まア、その氣で附き合はう。ところで、その娘の身性をまだ訊かなかつたな」

「平右衞門町の上總屋伊八の娘で」

「そいつは合點が行かないね、平右衞門町の伊八は、元は左官だといふが、金廻りが良いので、評判の良い男だ。娘をお前に預けるわけがないぢやないか」

「あつしもそんなことを言つて、隨分斷りましたがね、一緒に住んでゐる妹のお萬がだらしがない上、相長屋の兩隣りが、屑屋の久吉夫婦と、のんべえで喧嘩早い浪人者の檜木官之助ぢや、娘の躾が出來ないばかりでなく、娘が年頃になつたら、どんなことをされるかもわからないと、食扶持つきで、あつしの叔母さんに預けましたよ」

「何んだ。食扶持付きで叔母さんに預けたのなら、お前が居候扱ひをすることはなからう。言はばお客樣見たいなものぢやないか」

「早く言へば、そんなもので」

「そのお客樣をコキ使つたり、お酌をさしちや惡からう」

「叔母さんもさう言ひますよ。でも、お信乃ちやんはあつしと大の仲好しで、頼むと何んでもしてくれますよ」

「勝手な野郎だな」

「でも、叔母さんと二人、鼻突き合せて小言ばかり喰らつてゐるところへ、若い娘が一人割り込んで來たのは、賑やかになつて良いものですね」

それが本音らしい樣子です。相手が十三であらうと、六十八であらうと、話し相手には不足する八五郎ではありません。

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