Chapter 1 of 12
Chapter 1
昔男と聞く時は、今も床しき道中姿。その物語に題は通えど、これは東の銭なしが、一年思いたつよしして、参宮を志し、霞とともに立出でて、いそじあまりを三河国、そのから衣、ささおりの、安弁当の鰯の名に、紫はありながら、杜若には似もつかぬ、三等の赤切符。さればお紺の婀娜も見ず、弥次郎兵衛が洒落もなき、初詣の思い出草。宿屋の硯を仮寝の床に、路の記の端に書き入れて、一寸御見に入れたりしを、正綴にした今度の新版、さあさあかわりました双六と、だませば小児衆も合点せず。伊勢は七度よいところ、いざ御案内者で客を招けば、おらあ熊野へも三度目じゃと、いわれてお供に早がわり、いそがしかりける世渡りなり。
明治三十八乙巳年十月吉日
鏡花