Chapter 1
むかし むかし、おおかみが、きつねを、じぶんのうちにおいていました。
きつねは、動物のなかでも、たいへんよわい けものでした。ですから、おおかみのいうことは、なんでも、きかなければなりませんでした。きつねは、なんとかして、このしゅじんのところから にげだしたいと、おもっていました。
ある日のこと、きつねとおおかみは、ふたりで 森のなかをあるいていました。
そのとき、おおかみがいいだしました。
「おい、あかぎつね。なにか たべるものをもってこい。さもないと、おまえを ガリガリ たべちまうぞ。」
すると、きつねがこたえました。
「わたしは、子ひつじが二、三びきいる 百しょうやをしっています。もし、おのぞみでしたら、そいつを一ぴき、とったらどうでしょう。」
おおかみは気にいりました。そこで、ふたりででかけていきました。
きつねは、子ひつじを こっそり ぬすみだして、おおかみのところへもってきました。そして、じぶんは、そのまま さっさと、いってしまいました。おおかみは、ぺろりとごちそうをたいらげました。でも、まだまだ たりません。ほかのも ほしくなりました。そこで、ほかのもちょうだいしに、のこのこ でかけていきました。
ところが、おおかみのやりかたは、へたくそです。たちまち、子ひつじのお母さんに、みつかってしまいました。子ひつじのお母さんは、大声をはりあげて なきわめきました。それを お百しょうさんたちがききつけて、とんできました。
みんなは、おおかみをみつけると、さんざんに ぶったたきました。おかげで、おおかみは 足をひきずり、ヒーヒー なきながら、きつねのところへもどってきました。
「やい、きさま、よくも おれをだましたな。おれは、ほかの子ひつじも さらってこようと、おもったんだ。そしたら、百しょうどもにとっつかまってな。このとおり、体がぐにゃぐにゃになるまで、ぶちのめされたぞ。」
と、おおかみはいいました。
「あんたは、どうして、そう、くいしんぼうなんでしょうねえ。」
と、きつねはこたえました。
あくる日、ふたりは、また 野原へでかけました。
くいしんぼうのおおかみが、またもや いいだしました。
「おい、あかぎつね。なにか たべるものをもってこい。さもないと、おまえを ガリガリ たべちまうぞ。」
すると、きつねはこたえました。
「わたしは、ある百しょうやをしってるんですがね。そこのおかみさんが、こんや、たまごパンをやきます。そいつを とってやりましょうよ。」
ふたりはでかけていきました。きつねは、家のまわりを、こそこそ あるきまわりました。ながいこと、のぞいてみたり くんくん かいでみたりしてから、ようやく おさらのあるところを、みつけました。きつねは、そのおさらから、たまごパンを 六つだけひきずりおろして、おおかみのところへもってきました。
「さあ、ごちそうをもってきましたよ。」
と、きつねは、おおかみにいって、じぶんは、さっさと いってしまいました。
おおかみは、たまごパンを 六つとも、あっというまに のみこんでしまいました。
「もっと、くいたいなあ。」
おおかみは そう いうと、こんどは、ひとりででかけていきました。
ところが、おおかみときたら、たまごパンを、おさらにはいったまま ひきずりおろしたのです。さあ、たまりません。おさらは下におっこちて、こなごなに われてしまいました。
ガラガラ ピシャン という すさまじい音に、おかみさんがとびだしてきました。
おかみさんは、おおかみのすがたをみると、大声で、男たちをよびました。男たちはすっとんできて、おもいっきり、おおかみをたたきのめしました。で、おおかみは、足をひきずり ワーワー なきながら、森のなかの きつねのところへ、もどってきました。
「やい、きさまは、おれをひどいめにあわしたな。百しょうどもが、おれをとっつかまえて、さんざっぱら なぐったんだぞ。」
と、おおかみはどなりました。
「あんたは、なんて、くいしんぼうなんでしょうねえ。」
とだけ、きつねはいいました。
三日めです。ふたりは、また そろってでかけました。おおかみは、きょうは、足をひきずりひきずり、やっと あるいているありさまです。
それでいながら、また いいだしました。
「おい、あかぎつね。なにか たべるものをもってこい。さもないと、おまえを ガリガリ たべちまうぞ。」
すると、きつねはこたえました。
「わたしは、ある男をしってるんですがね。その男は 動物をころしましてね。しおづけにした肉を たるにつめて、あなぐらにしまっているんですよ。そいつをとってきましょうよ。」
けれども、おおかみは、こんどは こう いいました。
「それじゃ、おれも いっしょにいく。おれがにげられなくなったら おまえに たすけてもらえるようにな。」
「どうぞ、おすきなように。」
と、きつねはいって、おおかみに、ぬけ道やら ちか道やらを、おしえました。
ふたりは、そこをとおって、ようやく あなぐらのなかへ はいりこみました。みると、肉が うんとこさ あります。おおかみは、ものをもいわず かぶりつきました。
(こいつをかたづけるには、じかんがかかるな。)
と、おおかみはおもいました。
きつねも、うまそうにたべました。けれども、しょっちゅう、あたりを きょろきょろみまわしていました。そのあいだには、ときどき、さっきとおってきた あなのところへいって、じぶんの体が、まだ とおりぬけられるかどうかを、ためしていました。
それをみて、おおかみがいいました。
「やい、きつね。いったい なんだって、そんなに、あっちへうろうろ こっちへうろうろ、とびだしてったり とびこんできたりしているんだ。」
「だれかきやしないか、よく みはってないと、いけませんからね。」
と、きつねはこたえました。そして、つけくわえて、いいました。
「それより、あんまり たべすぎないほうがいいですよ。」
けれども、おおかみはいいました。
「このたるを からっぽにするまでは、ここを うごきやしないぞ。」
そうしているうちに、お百しょうさんが、きつねのとびはねる音を ききつけて、あなぐらへやってきました。きつねは、お百しょうさんをみると、ピョンと ひととび はねて、あなから にげていってしまいました。
おおかみも、あわてて ついていこうとしました。ところが、あんまりたべすぎて、おなかが ぱんぱんにふくれています。はいってきたときのあなを、とおりぬけることができません。体がひっかかって、ぬけなくなってしまいました。
お百しょうさんは、まるたんぼうをつかんできて、おおかみを、なぐってなぐって なぐりころしてしまいました。
きつねは、森のなかへ とんでかえりました。こちらは、くいしんぼうの じいさんおおかみから、うまく にげだすことができて、おおよろこびでした。
●図書カード