Chapter 1 of 1
Chapter 1
まがどりのやうな冠船が翼をひろげて
那覇港内にしやんで居るうちは
薩摩の殿にはあへまいわなあ。
凛々しい殿のかみしも姿が眼の前に
まざまざと浮んでくるやうな。―
殿はいま露つぽい美里間切を深編笠のしのびあるき。
あゝなさけない世となつた。
ついあけがたまでなつかしい殿御と
添寝の夢の名残は室の隅にも残れど。
うらめしい開門鐘に空が白むと
むつくり起きあかりて仰せらるゝ
「さらばかめイしばらくは待つてくれ。」
「妾もついてゆきます」と申すと
「これが邪魔する」とはつたと叩れた腰の朱鞘。
そうしててしやで染のわか小指をにぎられたが。
はてなさけない世となつた。
膏脂 香 息のつまりさうな唐人と
どうして添寝ができませうか。
●図書カード