Chapter 1 of 1

Chapter 1

幾日幾夜の 熱病の後なる

濠端のあさあけを讃ふ。

琥珀の雲 溶けて蒼空に流れ、

覚めやらで水を眺むる柳の一列あり。

もやひたるボートの 赤き三角旗は

密閉せる閨房の扉をあけはなち、

暁の冷気をよろこび甜むる男の舌なり。

朝なれば風は起ちて 雲母めく濠の面をわたり、

通学する十三歳の女学生の

白き靴下とスカートのあはひなる

ひかがみの青き血管に接吻す。

朝なれば風は起ちて 湿りたる柳の葉末をなぶり、

花を捧げて足速に木橋をよぎる

反身なる若き女の裳を反す。

その白足袋の 快き哄笑を聴きしか。

ああ 夥しき欲情は空にあり。

わが肉身は 卵殻の如く 完く且つ脆くして、

陽光はほの朱く 身うちに射し入るなり。

●図書カード

Chapter 1 of 1