Chapter 1 of 14

第一章

五年ほど前の三月、とある晴天の午後、グリニッジの古風な宿で、二人の男が出窓部屋に座り、目の前に置かれた大量の海図や地図を覗きこんでいた。

赤い夕日が川面を照らし、見事な船が何艘も浮かび、灰色のマストが針のように空を刺し、夕日が低い屋根造りの樫壁に差し込み、中に座った男達を金色に染めた。

部屋は専用だったので、誰も砂まみれの床を踏む者はなく、酔っ払い船員が聖域を乱す事もなかった。

のどかな美しい情景も、きらきら波立つ川が黄金の水平線に消え行くのも、男達は見もせず、気にもかけない。

二人のうち年長の男は海で生まれたかのような風貌を持ち、いかつい顔は強風で赤茶に変色し、澄んだ青い瞳は大胆不敵に光り、白髪は場違いを思わせるものの、体格は筋骨隆々、二十五年前と変わらない。

トム・アームストロングは、通称アームストロング船長で通り、もしうぬぼれ男だったなら、世界中で俺を知らぬ者はいないなどと、うそぶきかねない。五年程おかに上がり、蓄えた小金で暮らし、好きな宝探しに熱中していた。この分野で船長の博識を知るものはなく、雄大な古アシカ岬で驚くべき発見をしたことを知るものもいなかった。

船長の連れは名前がハロルド・コベントリ、二十六歳そこそこの若者だった。船長同様、海に熱中し、少しも裕福じゃないが、どうにか一艘の小さなヨットを持ち、どこの海へも突き進む。アームストロング船長との友情は長く、操船術の全てを学び、能力は生まれついてのもの、出自が高名な海軍一族であり、同家の名声はエリザベス朝から轟いていた。

同家の先祖がカリブ海で財産を築き、仲間にドレーク総督や、フロビシャー、マーチンがいた。だが、長いこと冒険したり、あちこち荒らし回ったりして、刺激を求めた結果、今や同家の末裔がこの若者に残したものはほとんどなく、残ったのはただ、海にまつわる一族の栄光と、年間三百ポンド程の収入と、大量の書類やら、羊皮紙やら、記録などがあるに過ぎず、本人は興味がほとんどなかったが、アームストロング船長にはこの上ない喜びであった。

アームストロング船長の部屋『人魚姫』で書類を広げて、どぎつい陽光に当てていたのが、かすれた紙や黄色い羊皮紙、特に船長の手にした羊皮紙の断片は念入りだ。

「好きなだけ物笑いにするがいい。だけど、わしが正しい」

「ええ、船長はいつも正しいです。暗号の一部ですね。我が家の言い伝えでは、すごい宝に関わるものだとか。すごいとしか知りませんが」

「キミの話を復唱しよう。キミの先祖のエイミアス・コベントリが三人の紳士達と一五七九年六月プリマス港を船出して、無事に航海して、ベラクルスに着いた。十四歳の娘バラリイを同伴していた。そんな小娘を乗せるとは妙だが、連れて行った。当時のアルバトロス号の航海日誌は今キミの所有物だが、わしが次のくだりを発見した」

船長が取り上げた羊皮表紙の日誌には符号やら科学記号が書かれており、手あかにまみれたページを開いて、読んだのが次である。

『一五八一年三月十八日、本日、大いなる危険と蛮勇を奮い、スペインの三本マスト帆船・ドン・ゴンザレス号を拿捕し、莫大な財宝を得た。宝の内訳はダブロン金貨が英国貨幣八万ポンド相当、及びリクスドラー金貨がその何十倍もあった。メキシコ湾に入り、ハバナの約三度西、ピノス島の一度北にあるサンタナ島に上陸して、宝を埋めた。正確な位置と方角は次の暗号で記す』

「いいか、お宝の価値は今の百万ポンド以上だぞ、それが島に埋まっている」

「ええ、でも、その島はどこにあるのですか。去年の夏、ホタル号でそこへ行って、ぴったりの位置に着けました、そんな島はどこにもありませんでした。地点は間違いありません。僕の航海日誌と観測記録が証拠です」

船長が書類をまさぐり、やがて目当てのものを取り出した。メキシコ湾の古い海図で、色々な場所が書き込まれている。一か所を骨太の人差し指で突いた。ハロルドが見れば、黄色い羊皮紙にサンタナという単語があった。

「変ですね。でも、僕が正しいです。この海図が正確なら、島は消滅しています」

だが船長はにこりともせず、若い相方を真剣に見つめておもむろに言った。

「消滅だ。海図とキミの観測を慎重に突き合わせれば、わしの確信するところ、キミは昔サンタナ島があった場所の真上を航海しておる」

「でしたら、この件についてはこれ以上、悩む必要はありませんね」

「だったら、難儀の始まりだぞ。わしがその島を見つけて、海面まで持ち上げてやる」

ハロルドが腹を抱えて笑った。船長が夢想家と知っていたが、海面下五百メートルに沈んだ島を持ち上げるとは、いかな学者でも荒唐無稽だ。

船長は大笑いされても、動じず言った。

「人は分からんとき笑うものだ。きっと島はサンゴ礁じゃ。むかし海面に浮く塊だったが、次第に物が積もって、でかくなった。熱帯植物の成長速度は知ってるだろ。だからサンタナ島も成長し、鳥が種を運び、木々が育ち、土が肥えた。でも島は浮いており、つなぎとめているのが、雑草や海草の長くて強い繊維じゃ。無数のロープのようであり、単独では弱いものの、からまって島を同じ位置に係留した。島があったのは分かっているから、これは議論しない。理屈上ではサンゴ礁から構成されとる。さて、ここが重要だ。なぜ消滅したか、いや率直に言えば、なぜ沈んだか」

「本当に沈んだとお考えですか」

「むろんだ。ほかに説明のしようがない。なぜか。わしは何カ月も古い旅行記や冒険談を読んだ。手書きや印刷本だが、遂に分かった。古文書によれば十七世紀初め、カラバ島で激しい噴火が起こった。歴史書に曰く、余りにも激しかったので周囲八十キロメートルの海上はちりと液火に覆われ、誰も近づけなかった。噴火が収まり、船乗りが聞いて驚くまいか、周りの島々が全部燃えて消えたとか。そう思ったのも無知のせいだが、現在では沈んだと分かっておる。カラバ島はサンタナ島からどれくらい離れているか」

「そんなに離れていません。確か直線距離で五十キロメートル以下です」

「全てわしの考えを証明しておる。分かるか、浮島と人間は沈んだんじゃ。もし島全体に石を六十センチ積んだら、島はどうなる」

「沈みます、船長。僕でも答えられますよ」

「まさに同様にカラバ島の爆発でサンタナ島が沈んだ。サンゴ礁の薄い殻の上に、何百万トンという石が降り、次第に重くなり、一様に積もった結果、島は重くなり、海底に沈んだ。サンタナ島は海面下五百メートルにある」

「そのようですね。でも、島は無くなったから、一巻の終わりですよ」

「そう思う者もおる。だが不可能なものはないぞ。お宝があると確信するから、わしは全財産をなげうって、回収するつもりだ。やるべきことはカラバ島へ出発し、そこから過失島へ行って、サンタナ島を引き上げる。三キロメートル以内にある」

ハロルドが驚いて船長を見れば、キラキラ光る青い目は狂った様子もなく、キセルをプカプカふかしている。

船長の素晴らしい科学知識は大いに尊敬するが、今の提案は非現実的だと言うほかない。だが、これまでの偉業が余りにも多く、例外ぞろいだったので、無碍に否定するわけにもいかなかった。

「たとえ可能だとしても、宝を見つけるまでは何年もかかりますよ」

「そうかもしれん。暗号が半分しか無いからな。だがな、残りの半分を遂に見つけたぞ。わしは最近大英博物館に入り浸っておった。当然メキシコ湾の火山噴火に関する本を読んどった。近頃、度々スペイン人と鉢合わせして、名前はバラドスと分かったが、これが同じ本に興味を持っていた。探し物が同じだと気付いて話しかけたが、最初口をきかなかったものの、読書の隙をついて『サンタナ島を見つけたか』と聞いたら、急に興奮しよった。まさにそれを探していたんだ」

「そんなばかな。ほかに何か言いましたか」

とハロルドが素っ頓狂な声を上げた。

「自分で話しにここへ来るそうだ。暗号の半分を持っておる」

ハロルドの驚きと言ったらありゃしない。もしその時、扉が開いて訪問者が来なかったら、もっと聞きたかっただろう。

暗い感じの、腕っ節の強そうな美男だが、やや不気味な面持ちで、疑わしげにハロルドをにらんだのは、アームストロング船長が型通りの紹介をした時だった。

「こちらはミゲル・バラドス氏、こちらはハロルド・コベントリ氏。バラドス氏はキミの親戚だそうだが、とても遠い。というのも、エイミアス・コベントリの娘のバラリイ・コベントリが、バラドス氏の先祖と結婚したからだ」

バラドスが後を引き継いだ。

「私から説明した方がいいでしょう。あなたのことはアームストロング船長から聞いてよく知っておりますが、私のことは知らないでしょう。エイミアス・コベントリはサンタナ島に宝を隠してから、私の先祖のスペイン艦長に捕らえられました。エイミアスは海賊として死刑判決を受けましたが、首尾よく逃げて、その後どうなったかは分かりません。そのあと船はスペインへ曳航されました。結局、バラリイ・コベントリはスペインに残り、艦長の息子と結婚しました」

「我が家の言い伝えによると、バラリイの口癖はエイミアス・コベントリが膨大な宝をサンタナ島に隠したとのことでした。誰もこの話は本気にしなかったのですが、ある時サンタナ島が実在したことを発見しました。更に判明した事実は、先祖のバラリイ・バラドスが羊皮紙に書かれた暗号断片を子孫に渡し、残り半分は実父が所有し、用心して分割し、敵に捕まった時に備えたそうです。アームストロング船長と出会ったのはとても奇遇ですが、私が真実を言っている証拠に、我が家の暗号片を見せましょう」

それ以上前置きせず、バラドスがポケットから小さな革袋を取り出し、中から薄汚い羊皮紙の断片を見せた。

船長がちょっと興奮して、鉄製金庫を開け、もう一つの羊皮断片を取り出し、窓に近づけ、光がよく当たるようにして、両者のへりをくっつけた。

船長が狂喜した。

「ぴったりだぞ。見てみろ」

三人が暗号を食い入るように見つめた。記号はみみず文字で奇妙に書かれ、くしゃくしゃで、ちっとも価値がありそうに見えないが、解読さえできれば、ひょっとして隠し財宝の秘密が分かるかもしれない。

ハロルドとバラドスが判じ物を見た。これだ。

全員が熱心に見たあと、ハロルドが笑った。

「ハハハ、何も分からないでしょう。しゃれこうべのほかは」

「たぶん、島へ行ったら、暗号が解けるかもしれん。わしなら、すぐだ」

「その朝飯仕事をお手伝いしてくれませんか。船長は素晴らしい才能の持ち主ですし、やり方を教えてくだされば、千ポンド出してもやぶさかじゃありません。もちろん、コベントリ氏も興味があるので出資なさるでしょう」

二人がハロルド・コベントリを見た。船長は青い目を輝かせ、バラドスは催促するように顔を覗き込んだ。幻の冒険に大金を継ぎこむことになるが、ハロルドにはもともと賭け事師の素質があった。

「やりましょう。船長はいつ出発できますか」

船長が椅子から立ち上がり、興奮して行ったり来たり。心眼で、既に成功を見てとった。

「すぐ行こう。必要なのはハロルドのヨットだ。あと一人か二人乗せて、雑用をさせよう。大騒ぎしないほうが好都合だ。わしの科学装置に準備時間がちょっとかかる。一週間で出発できるぞ」

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