薄田泣菫
薄田泣菫 · Japanese
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薄田泣菫 · Japanese
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Original (Japanese)
かういふ話がある。 ある時、山ぞひの二また道を、若い男と若い女とが、どちらも同じ方向をさして歩いてゐたことがあつた。 二また道の間隔は、段々せばめられて、やがて一筋道となつた。見ず知らずの二人は、一緒に連立つて歩かなければならなくなつた。 若い男は、背には空になつた水桶をかつぎ、左の手には鶏をぶら提げ、右の手には杖を持ちながら、一頭の山羊をひつぱつてゐた。 道が薄暗い渓谷に入つて来ると、女は気づかはしさうに言葉をかけた。 「わたし何だか心配でたまらなくなつたわ。こんな寂しい渓谷を、あなたとたつた二人で連立つて歩いてゐて、もしかあなたが力づくで接吻でもなすつたら、どうしようかしら。ほんたうに困つちまふのよ。」 「え。僕が力づくであなたを接吻するんですつて。」男は思ひがけない言ひがかりに、腹立ちと可笑しさとのごつちやになつた表情をした。「馬鹿をいふものぢやありません。僕は御覧の通り、こんなに大きな水桶を脊負つて、片手には鶏をぶら提げ、片手には杖をついて、おまけに山羊をひつぱつてるぢやありませんか。まるで手足を縛られたも同然の僕に、そんな真似が出来よう筈がありませんよ。」 「それあさうでせう
薄田泣菫
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