永井荷風
永井荷風 · Japanese
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永井荷風 · Japanese
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Original (Japanese)
なにがしと呼ぶ婦人雑誌の編輯人しばしばわが廬に訪ひ来りて通俗なる小説を書きてたまはれと請ふこと頻なり。そもそも通俗の語たるやその意解しやすきが如くにしてまた解しがたし。僕一人の観て以て通俗となすもの世人果して然りとなすや否やいまだ知るべからざるなり。通俗の意はけだし世と共に変ずべきものなるべし。川柳都々逸は江戸時代にあつては通俗の文学なりき。しかして今日は然らず。今日もしつぶさに『末摘花』のいふ処を解釈し得ば容易に文学博士の学位を得べし。むかし女郎の無心手紙には候かしくの末に都々一なぞ書き添るもの多かりしが、今日大正の手紙には童謡とやら短歌とやら書きつけて性の悶を告ぐとか聞けり。されば今日の男女に喜ばるべき通俗小説をものせんとせば、筆を秉るに先んじてまづ今日の下情に通暁せざるべからざるなり。下情に通暁せんにはその眼光水戸黄門の如くなるにあらざれば、その経歴遠山左衛門尉に比すべきものなくんばあるべからず。ここにおいてや通俗小説の述作豈それ容易の業ならんや。人おのおの好むところあり。下戸あり。上戸あり。上戸の中更に泣くものあり笑ふものあり怒るものあり。然れども下戸上戸おしなべて好むところの
永井荷風
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