野村胡堂
野村胡堂 · Japanese
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野村胡堂 · Japanese
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Original (Japanese)
「た、助けてくれ」 若党の勇吉は、玄関の敷台へ駆け込んで眼を廻してしまいました。 八丁堀の与力笹野新三郎の役宅、主人の新三郎はその日、鈴ヶ森の磔刑に立ち会って、跡始末が遅れたものか、まだ帰らず、妻のお国は二三人の召使を供につれて、両国の川開きを見物かたがた、浜町の里方に招かれて、これもまだ帰らなかったのです。 留守宅は用人の小田島伝蔵老人と、近頃両国の水茶屋を引いて、行儀見習のために来ている、銭形平次の許嫁お静。それに主人新三郎の遠縁に当る美しい中年増のお吉、外に下女やら庭掃きやら、ほんの五六人が鳴りを鎮めて、主人夫婦の帰りを待っておりました。 そこへこの騒ぎです。 「それッ」 と飛出してみると、玄関にへた張った勇吉の背中には、主人新三郎の一粒種、とって五つの新太郎が、これも眼を廻したままおんぶしておりました。 「あッ、若様が」 「どうしたことだろう」 身分柄、贅沢な羅物を着せた、男人形のように可愛らしい新太郎を抱き取って、医者よ、薬よという騒ぎ。幸い間もなく正気付きましたが、余程ひどく怯えたものと見えて、啜り泣いたり顫えたりするばかりで、容易に口も利けません。 若党の勇吉は眼を廻した
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