野村胡堂
野村胡堂 · Japanese
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野村胡堂 · Japanese
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Original (Japanese)
錢形平次もこんな突拍子もない事件に出つくはしたことはありません。相手は十萬石の大名、一つ間違ふと天下の騷ぎにならうも知れない形勢だつたのです。 江戸の街はまだ屠蘇機嫌で、妙にソハソハした正月の四日、平次は回禮も一段落になつた安らかな心持を、其陽溜りに持つて來て、ガラツ八の八五郎を相手に無駄話をして居ると、お靜に取り次がせて、若い男の追つ立てられるやうな上ずつた聲が表の方から聞えて來ます。 「八、こいつは飛んだ御用始めになりさうだぜ、手前は裏からそつと廻つて、あの客人に氣を付けるんだ」 「へエ――」 八五郎は腑に落ちない顏を擧げました。少し造作の間伸びはしてますが、そのうちにも何となく仕込みの良い獵犬のやうな好戰的なところがあります。 「見なきや判らないが、多分あの客人の後を跟けて居る者があるだらう」 「へエ――」 八五郎は呑込み兼ねた樣子乍ら、平次の日頃のやり口を知つて居るだけに、問ひ返しもせず、お勝手口の方へ姿を消しました。 入れ違ひに案内されて來たのは、十七八の武家とも町人とも見える、不思議な若い男。襲はれるやうに後ろを振り返り乍ら、 「平次親分で御座いますか、――た、大變な事にな
野村胡堂
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