野村胡堂
野村胡堂 · Japanese
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野村胡堂 · Japanese
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Original (Japanese)
「八、花は散り際って言うが、人出の少なくなった向島を、花吹雪を浴びて歩くのも悪くねえな」 銭形平次はいかにも好い心持そうでした。 「悪いとは言いませんがね、親分」 「何だ、文句があるのかえ」 「こう、金龍山の鐘が陰に籠ってボーンと鳴ると、五臓六腑へ沁み渡りますぜ」 「怪談噺てえ道具立じゃないよ。見や、もう月が出るじゃないか」 「へッ、へッ、真っ直ぐに申上げると、腹が減ったんで」 ガラッ八の八五郎は、長い顎を撫でました。涎を揉み上げるといった恰好です。 「もう食う話か、先刻あんなに詰め込んだ団子はどこへ入ったんだ」 「それが解らないから不思議で、――何しろ竹屋の渡しから水神まで三遍半歩いちゃ、大概の団子腹がたまりませんよ」 「泣くなよ八、風流気のない野郎だ」 銭形の平次と子分の八五郎は、こんな無駄を言いながら、向島の土手を歩いておりました。 昼のうちは、落花を惜しむ人の群で、相当以上に賑わいますが、日が暮れると、グッと疎らになって、平次と八五郎の太平楽を妨げる酔っ払いもありません。 ちょうど牛の御前のあたりへ来た時。 バタバタと後ろから足音がして、除け損ねた八五郎の身体へドンと突き当りま
野村胡堂
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