牧野信一
牧野信一 · Japanese
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牧野信一 · Japanese
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Original (Japanese)
……………… 火をいれた誘蛾灯が机の上に置いてあります。その光りで見ると、捕虫綱もあります。毒壺も、採集箱もそろつてゐます。 どうもこれは見覚えのある道具だと思つて、とりあげてみると捕虫網の柄にも、採集箱の隅にも、ちやんと、S・Mと、僕の名前が記してあります。何年か前に博物学者にならうといふ理想をもつてゐた頃僕が使つたまゝ、一切の昆虫採集用具が部屋中に散乱してゐます。壁には採集物の額が並べかゝげてあり、棚にはアルコールづけの標本が、どれも僕の明瞭な採集記憶を呼び起させて、一杯ならんでゐます。 毒壺の中では一つの玉虫と甲虫が苦悶してゐます。 「これは?」 と思つてゐると、隣りの部屋からルルが入つて来て、 「今日の成績は何うだつたの!」 とたづねるのです。 ルル! あの頃の僕のたつたひとりの友達であつた緑色の瞳をもつた娘です。 すると僕は、毒壺を指さしてゐました。僕のつもりでは、これは誰が採集して来たのか? と訊ねたのでしたが、ルルはそれを見るととても輝やかしい眼を視張つて、綺麗な驚嘆詞を放ち、そして僕の頬を平手で、賞讚の意をもつてハタハタと叩きます。 ………………………… 僕は捕虫網をか
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