葛西善蔵
葛西善蔵 · Jepang
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葛西善蔵 · Jepang
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Teks asli (Jepang)
彼はまたいつとなくだん/\と場末へ追ひ込まれてゐた。 四月の末であつた。空にはもや/\と靄のやうな雲がつまつて、日光がチカ/\桜の青葉に降りそゝいで、雀の子がヂユク/\啼きくさつてゐた。どこかで朝から晩まで地形ならしのヤートコセが始まつてゐた……。 彼は疲れて、青い顔をして、眼色は病んだ獣のやうに鈍く光つてゐる。不眠の夜が続く。ぢつとしてゐても動悸がひどく感じられて鎮めようとすると、尚ほ襲はれたやうに激しくなつて行くのであつた。 今度の下宿は、小官吏の後家さんでもあらうと思はれる四十五六の上さんが、ゐなか者の女中相手につましくやつてゐるのであつた。樹木の多い場末の、軒の低い平家建の薄暗くじめ/\した小さな家であつた。彼の所有物と云つては、夜具と、机と、何にもはひつてない桐の小箪笥だけである。桐の小箪笥だけが、彼の永い貧乏な生活の間に売残された、たつたひとつの哀しい思ひ出の物なのであつた。 彼は剥げた一閑張の小机を、竹垣ごしに狭い通りに向いた窓際に据ゑた。その低い、朽つて白く黴の生えた窓庇とすれ/\に、育ちのわるい梧桐がひよろ/\と植つてゐる。そして黒い毛虫がひとつ、毎日その幹をはひ下り
葛西善蔵
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