牧野信一
牧野信一 · Jepang
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牧野信一 · Jepang
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Teks asli (Jepang)
一郎は今迄しきりに読んでゐた書物から眼を放すと、書斎の窓を開いて庭を眺めた。――冬枯の庭は、どの木も寒さうに震へてゐるかのやうに見えた。南天の実の紅色だけが僅かな色彩で、冬の陽に映えてゐるばかりだつた。空はよく晴れてゐて、時たま何処かで百舌の声などがキーキーツと絹地でも引き裂くやうに鳴き渡ると、空の彼方までそれが長い糸のやうな余韻を残して消えて行つた。風もないのに木の葉がハラハラとこぼれて来た。ふと、その様を見ると、一郎は涙が胸まで込み上げて来るのを感じた。 それは、つひ一日前の日の事だつた。昼休みの時間に機械体操につかまつて、もう少しで出来かゝつてゐる「中振り」を一所懸命に練習してゐるところへ組長が来て、 「君はこゝに居たのか、さつきから随分探したぜ。実はS――先生が君に用事があるから直ぐ来い、と伝へられたのだ。すぐに行つて呉れないか。」と云ふのであつた。 「僕に用事だつて? をかしいな! 何だらう。」先生の用事と云ふと、それに昼休みに呼ばれるといふのは、大概叱られることに定つてゐる……と、一郎は思つたから、可成り厭な気持がして、服に着いた砂をはらひながら、もう一度「ほんとに僕なのか
牧野信一
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