Vol. 2May 2026

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Perpustakaan pengetahuan dunia domain publik

14,981종 중 5,976종 표시

夏の町

永井荷風

枇杷の実は熟して百合の花は既に散り、昼も蚊の鳴く植込の蔭には、七度も色を変えるという盛りの長い紫陽花の花さえ早や萎れてしまった。梅雨が過ぎて盆芝居の興行も千秋楽に近づくと誰も彼も避暑に行く。郷里へ帰る。そして炎暑の明い寂寞が都会を占領する。 しかし自分は子供の時から、毎年の七、八月をば大概何処へも旅行せずに東京で費してしまうのが例であった。第一の理由は東京に

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夏目先生の俳句と漢詩

寺田寅彦

夏目先生の俳句と漢詩 寺田寅彦 夏目先生が未だ創作家としての先生自身を自覚しない前に、その先生の中の創作家は何処かの隙間を求めてその創作に対する情熱の発露を求めていたもののように思われる。その発露の恰好な一つの創作形式として選ばれたのが漢詩と俳句であった。云わば遠からず爆発しようとする火山の活動のエネルギーがわずかに小噴気口の噴煙や微弱な局部地震となって現わ

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夏目漱石先生の追憶

寺田寅彦

夏目漱石先生の追憶 寺田寅彦 熊本第五高等学校在学中第二学年の学年試験の終わったころの事である。同県学生のうちで試験を「しくじったらしい」二三人のためにそれぞれの受け持ちの先生がたの私宅を歴訪していわゆる「点をもらう」ための運動委員が選ばれた時に、自分も幸か不幸かその一員にされてしまった。その時に夏目先生の英語をしくじったというのが自分の親類つづきの男で、そ

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夏と私

中原中也

真ツ白い嘆かひのうちに、 海を見たり。鴎を見たり。 高きより、風のただ中に、 思ひ出の破片の翻転するをみたり。 夏としなれば、高山に、 真ツ白い嘆きを見たり。 燃ゆる山路を、登りゆきて 頂上の風に吹かれたり。 風に吹かれつ、わが来し方に 茫然としぬ、……涙しぬ。 はてしなき、そが心 母にも、……もとより友にも明さざりき。 しかすがにのぞみのみにて、 拱きて、

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夏 〔私が貧乏で〕

中原中也

私が貧乏で、旅行としいへば殆んど夏にしかしないからかも知れない、………夏と聞くと旅愁が湧いて来て、却々「夏は四季のうち、自然の最も旺んなる時なり」どころではない、なんだか哀れにも懐しいといつた風で、扨この夏はどうしようかなと思ふと、忽ちに嘗て旅した何処かの、暑い暑い風景が浮んで来て、おもへば遠く来つるかなと、そいつた気持に胸はふくらむで来るのである。 ゆらり

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夏秋表

立原道造

夏秋表 立原道造 その一 私はふたつのさびしい虫のいのちと交感を持った。 信濃路に夏の訪れのあわただしい日、私は先生の山荘の庭に先生とならんで季節の会話のひまにその虫の声を聞いたのである。春蝉と言った。七月なかば、五日か七日をかぎって、林のなかに啼いて、あとは行方も知らない。その日々の高原の空にはほととぎす、やぶうぐいす、閑古鳥などの唄がひびいていた。そのな

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夏芝居

折口信夫

真夏の天地は、昼も夜も、まことに澄みきつた寂しさである。日の光りの照り極まつた真昼の街衢に、電信柱のおとす影。どうかすると、月の夜を思はせる静けさの極みである。夜は又夜で、白昼の如く澄みきつた道の上のわづかな陰が、道をしへでも飛び立ちさうな錯覚を誘ふ気を起させる。世の中が昔のまゝだつたら、都会も田舎も今はかう言ふしみ/″\した寂しさの感じられる夏の最中である

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夏の花

原民喜

夏の花 原民喜 わが愛する者よ請う急ぎはしれ 香わしき山々の上にありての ごとく小鹿のごとくあれ 私は街に出て花を買うと、妻の墓を訪れようと思った。ポケットには仏壇からとり出した線香が一束あった。八月十五日は妻にとって初盆にあたるのだが、それまでこのふるさとの街が無事かどうかは疑わしかった。恰度、休電日ではあったが、朝から花をもって街を歩いている男は、私のほ

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夏の花

原民喜

夏の花 原民喜 わが愛する者よ請ふ急ぎはしれ 香はしき山々の上にありての ごとく小鹿のごとくあれ 私は街に出て花を買ふと、妻の墓を訪れようと思つた。ポケットには仏壇からとり出した線香が一束あつた。八月十五日は妻にとつて初盆にあたるのだが、それまでこのふるさとの街が無事かどうかは疑はしかつた。恰度、休電日ではあつたが、朝から花をもつて街を歩いてゐる男は、私のほ

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夏蚕時

金田千鶴

夏蚕時 金田千鶴 一 午過ぎてから梅雨雲が切れて薄い陽が照りはじめた。雨上りの泥濘道を学校帰りの子供達が群れて来た。森田部落の子供達だ。 山の角を一つ廻ると、ゴトゴト鳴いてゐた蛙の声がばったり熄んだ。一人の子がいきなり裾をからげて田の中へ入った。そしてヂャブヂャブさせ乍ら蛙を追ひ廻した。 「厭アだな! 秀さはまた着物汚してお父まに怒られるで……。」 後から来

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夏釣日記

佐藤垢石

二日の昼過ぎ、生駒翔先生と将棋の木村名人と私と、大鯛釣を志して伊豆の網代温泉へ着いた。宿の窓から吹き入る南風が涼しい。海は、随分静かである。眼の下の海水浴場で、男の子の黒い体と、女の子の赤い海水着が小波に潜ったり浮んだりしていた。 木村名人は宿へ着くのが一足遅れたので私と生駒先生は、午後の半日を湾内で小物釣を楽しもうということになって、舟を出した。狙った場所

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夏は青い空に……

中原中也

夏は青い空に、白い雲を浮ばせ、 わが嘆きをうたふ。 わが知らぬ、とほきとほきとほき深みにて 青空は、白い雲を呼ぶ。 わが嘆きわが悲しみよ、かうべを昂げよ。 ――記憶も、去るにあらずや…… 湧き起る歓喜のためには 人の情けも、小さきものとみゆるにあらずや ああ、神様、これがすべてでございます、 尽すなく尽さるるなく、 心のままにうたへる心こそ これがすべてでご

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夏と魚

佐藤惣之助

夏の匂ひのする、夏の光りのある、夏の形体をもつてゐる魚――といつたら、すぐ鮎だ、鱚だ、鯛と鱸だ。夏ほど魚が魚らしく、清奇で、輝いて溌剌としてゐる時はない。青い魚籠に蓼を添へる、笹を置く、葭を敷く、それで一幅の水墨画になる。夏になるとその生活の半分を魚釣りで暮す故か、私にとつて夏ほど魚を愛し、魚に親しむ時はない。極端にいふと暑い夏百日は魚になつて暮らしたいほど

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夕がたの人々

西村陽吉

かあいそうな娘さんたちよ、夕方の町を二三人ずつ群を成して、いかめしい煉瓦造りの裏門から、吐きだされてゆく娘さんたちよ、おしろいをきれいに顔につけて、折目のただしい海老茶の袴をはき、白足袋に日和下駄をはいてはいるけれど、手に抱えている風呂敷包みの中は、お弁当のからばこ、白い事務服、それから紅い鼻緒の上草履のようなもの。そうしてたのしそうにお友達と世間話や未来の

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夕凪

原民喜

老婆は台所の隅の火鉢に依掛って肉を焼いた。彼女の額も首も汗に滲み、まるで自分が焼かれてゐるやうな気がした。四つになる児が火のついたやうに傍で泣いた。口を四角に開けて、両手で足をさすりながら「駅に行かう、駅へつれて行け。」と強請んだ。 台所の高窓には午後五時の青空と白熱の光を放つ松の樹があった。その松では油蝉が啼いた。肉はじりじりと金網の上で微かな音を立てた。

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夕凪と夕風

寺田寅彦

夕凪と夕風 寺田寅彦 夕凪は郷里高知の名物の一つである。しかしこの名物は実は他国にも方々にあって、特に瀬戸内海沿岸にこれが著しいようである。そうして国々で○○の夕凪、□□の夕凪といって他の名物を自慢するように自慢にしているらしい。普通は特有な好いものを自慢にするのだが、たまにはあまりよくない特色を自慢する場合もあるのである。 アインシュタインが有名になりかけ

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夕張の宿

小山清

北海道の夕張炭坑に、弥生寮という炭坑夫の合宿がある。ある日、寮生の一人で坑内雑夫をしている順吉というのが、痔の手術をするために炭坑病院に入院した。順吉にはまえから痔の気があったのだが、坑内で働いているうちに悪化したのである。附添いには寮の掃除婦をしているおすぎという寡婦が附いていった。 おすぎの夫は、坑内の人車捲きの係りをしていたのだが、仕事の帰りに、疾走し

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夕ぐれの明るさに憶う

今野大力

夕ぐれのあかるさ パッと室一杯にあふれて 十六燭の電灯のあかるさなど 小さくすぼんでいるようなこころよい明るさ 忽ちに薄暗くなるこの時刻に これは又何といい明るさだ カーテンをすっかりとり払い 硝子窓を通してもかまわない あの明るい空を眺めよう あの空 あの色 何がこんなにうれしいのか もう三年越しの病人が こしらえたような感激を求めているのだろうか そうで

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夕映えのむこうの国 時代を超えた童話

キングスフォードアンナ

昔々、一人の王女がおりました。さて、この王女は夕映えの遥か彼方の美しい国に住まい、永久の若さと尊き家名を継いでいました。とても裕福で、宮殿は隅々まで大理石やアラバスターやその他贅を凝らした造りでした。ですが、王女の何が一番素晴らしかったかというと、その妙なる美しさ――夕映えのこちら側の世界では誰も目にしたことがないような美しさでした。王女の美しさは光り輝く心

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夕焼け

竹内浩三

赤い赤い四角い形が 障子に落ちている 青い青い丸い葉が 赤い空気に酔っている ひらひらとコーモリが 躍る 人は 静かに戸を閉めて 電気をつけて 汁をすする 赤い明るい西の空も 灰色にむしばまれる そしてくろくなって やがてだいやもんどに灯がつく そして人は日記などつけて 灯を消し 一日が終わったと考えて 神に感謝して 祈る ●図書カード

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夕焼けがうすれて

小川未明

汽笛が鳴って、工場の門をでるころには、日は西の山へ入るのでありました。ふと、達夫は歩きながら、 「僕のお父さんは、もう帰ってこないのだ。」と、頭にこんなことが思い浮かぶと、いつしかみんなからおくれて、自分は、ひとりぼんやりと、橋の上に立っていました。 もはや通る人もありません。水は海の方へ向かって流れています。広告燈の赤い光が、川水のおもてに映っていました。

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夕焼け物語

小川未明

三人の娘らは、いずれもあまり富んでいる家の子供でなかったのです。 ある春の末のことでありました。村にはお祭りがあって、なかなかにぎやかでございました。 三人の娘らも、いっしょにうちつれてお宮の方へおまいりにゆきました。そうして、遊んでやがて日が暮れかかるものですから、三人は街道を歩いて家の方へと帰ってゆきました。 すると、あちらの浜辺の方から、一人のじいさん

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夕立

永井荷風

夕立 永井荷風 白魚、都鳥、火事、喧嘩、さては富士筑波の眺めとともに夕立もまた東都名物の一つなり。 浮世絵に夕立を描けるもの甚多し。いずれも市井の特色を描出して興趣津々たるが中に鍬形斎が祭礼の図に、若衆大勢夕立にあいて花車を路頭に捨て見物の男女もろともに狼狽疾走するさまを描きたるもの、余の見し驟雨の図中その冠たるものなり。これに亜ぐものは国芳が御厩川岸雨中の

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