Vol. 2May 2026

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銭形平次捕物控 213 一と目千両

野村胡堂

「親分、東両国にたいそうな小屋が建ちましたね。あッしは人に誘われて二三度覗きましたが、いや、その綺麗さというものは」 八五郎は相変らず江戸中のニュースを掻き集めて、親分の銭形平次のところへ持って来るのでした。 「御殿造りの小屋でも建ったのかえ」 「そんな間抜けなものじゃありませんよ。小屋は昔からチャチなものですが、中味が大変なんで、たまらねえほど綺麗な娘太夫

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銭形平次捕物控 213 一と目千両

野村胡堂

「親分、東兩國に大層な小屋が建ちましたね。あツしは人に誘はれて二三度覗きましたが、いや、その綺麗さといふものは」 八五郎は相變らず江戸中のニユースを掻き集めて、親分の錢形平次のところへ持つて來るのでした。 「御殿造りの小屋でも建つたのかえ」 「そんな間拔けなものぢやありませんよ。小屋は昔からチヤチなものですが、中味が大變なんで、たまらねえほど綺麗な娘太夫が二

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銭形平次捕物控 214 鼬小僧の正体

野村胡堂

「親分、お早うございます」 「あれ、大層行儀がよくなつたぢやないか、八」 錢形平次は膽をつぶしました。彌造も拔かずに、敷居際に突つ立つて『お早う』などと顎をしやくる八五郎が、今日は何を考へたか、入口から斯う、世間並の挨拶をして入つて來たのです。 二月もあと一、二日、彼方此方の花がふくらんだとやらで、江戸の人氣はほろ醉ひ機嫌といふところでした。 「でせう、親分

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銭形平次捕物控 215 妾の貞操

野村胡堂

「ウーム」 加賀屋勘兵衞は恐ろしい夢から覺めて、思はず唸りました。部屋一パイにこめて居るのは、七味唐辛子をブチ撒けたやうな、凄い煙で、その煙を劈ざいて、稻妻の走ると見たのは、雨戸から障子へ燃え移つた焔です。 「火事だツ」 絶叫した聲は、喉の中で消えました。眼、鼻、口から入る煙のえぐさは、面も擧げられない有樣です。 「親分」 氣が付いて見ると、床を並べて居た若

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銭形平次捕物控 216 邪恋の償ひ

野村胡堂

早春のよく晴れた陽を浴びて、植木の世話をしてゐる平次の後ろから、 「親分、逢つてやつて下さいよ。枝からもぎ立ての桃のやうに、銀色のうぶ毛の生えた可愛らしい娘ですがね」 八五郎は拇指で、蝮を拵へて、肩越しに木戸を指すのです。 「何んだ、その桃の實てえのは?」 「桃ぢやありませんよ。武家風のお孃さんですよ、――永代橋の欄干に凭れて、泣き出しさうな恰好をして居るぢ

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銭形平次捕物控 217 歎きの幽沢

野村胡堂

「親分、世の中には變な野郎があるもんですね」 八五郎は彌造を二つ拵へたまゝ、フラリと庭へ入つて來ました。 朝のうちから眞珠色の霞がこめて、トロトロと眠くなる四月のある日。 「顎で木戸を開ける野郎だつて、隨分尋常ぢやないぜ」 平次は相變らず貧乏臭い植木の世話を燒き乍ら、氣のない顏を擧げるのでした。 「顎で木戸は開きませんよ」 狹い庭一杯の春の陽の中に、八五郎は

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銭形平次捕物控 218 心中崩れ

野村胡堂

心中でもしようといふ者にとつて、その晩はまことに申分のない美しい夜でした。 青葉の風が衣袂に薫じて、十三夜の月も泣いてゐるやうな大川端、道がこのまゝあの世とやらに通じてゐるものなら、思ひ合つた二人は、何んのためらひもなく、水の中へでも火の中へでも飛び込み度くなることでせう。 神田鍋町の雜穀問屋、三芳屋彦兵衞の甥の音次郎と、同じ店に奉公人のやうに働いて居る、遠

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銭形平次捕物控 219 鐘の音

野村胡堂

「親分、近頃江戸にも、變なお宗旨があるんですつてね」 ガラツ八の八五郎、何を嗅ぎ出したか、小鼻を膨らませて、庭口からノソリと入つて來ました。 五月の末のある朝、明神樣の森も申分なく繁り合つて、平次の家までが、緑の庭に淀んだやうな日和です。庭先に並べた草花の鉢の芽を、後生大事にいつくしんでゐるところへ、この足に眼のない男が木戸を跳ね飛ばすやうに闖入して來たので

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銭形平次捕物控 220 猿蟹合戦

野村胡堂

「日本一の面白い話があるんですが、親分」 ガラツ八の八五郎、こみ上げる笑ひを噛みしめながら、ニヤリニヤリと入つて來るのです。 六月になつたばかり、明神樣の森がからりと晴れて、久し振りの好い天氣。平次は襷がけにはたきを持つて、梅雨中閉ぢ込めた家の中の濕氣と埃を、威勢よく掃き出して居りました。 「顏の紐のゆるんだのが、路地を入つて來ると思ふと、それが外ならぬ八五

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銭形平次捕物控 221 晒し場は招く

野村胡堂

「親分、日本橋の騷ぎを御存じですかえ」 「知らないよ。晒し物でもあつたのか、――相對死の片割れなんかを、ぼんやり眺めてゐるのは殺生だぜ」 平次は氣のない顏をして、自分の膝つ小僧を抱いたまゝ、縁側から初秋の淺黄色の朝空を眺めて居ります。 八月になつて、少し凉風が立ち初めると、人間共も本心を取戻したか、御用はびつくりするほど暇。その代り質草も粉煙草も、結構な智慧

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銭形平次捕物控 222 乗合舟

野村胡堂

八五郎は獨りで、向島へ行つた歸り、まだ陽は高いし、秋日和は快適だし、赤トンボに誘はれるやうな心持で、フラフラと橋場の渡し舟に乘つて居りました。 懷中はあまり豐かでないが、新鳥越の知合を訪ねて、觀音樣へお詣りして、雷門前で輕く一杯呑んで、おこしか何んか、安くて嵩張るお土産を買つて、明神下の錢形の親分のところへ辿り着くと、丁度晩飯時になる――と言つた、まことに都

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銭形平次捕物控 223 三つの菓子

野村胡堂

谷中三崎町に、小大名の下屋敷ほどの構へで、界隈を睥睨してゐる有徳の町人丁子屋善兵衞。日本橋の目貫にあつた、數代傳はる唐物屋の店を賣つて、その金を高利に廻し、贅澤と風流と、女道樂に浮身をやつし、通と洒落と意氣事に、夜を以て日に繼ぐ結構な身分でした。 その丁子屋善兵衞が、下總のさる小藩の御用金を引受け、財政の窮乏を救ふ一助ともなつたといふ理由で、江戸御留守居の相

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銭形平次捕物控 224 五つの壺

野村胡堂

「親分、長い間お世話になりましたが――」 八五郎はいきなり妙なことを言ひ出すのです。まだ火の入らない長火鉢の前、お茶をのんで煙草をふかして、煙草を呑んでお茶を啜つて、五尺八寸の身體が、ニコチンとカフエーンで一杯になつた頃、何やら繼穗のない話を思ひ出したのでせう。 「大層改まるぢやないか、――まさか長い草鞋を履くについての挨拶ぢやあるめえな」 平次は大きく欠伸

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銭形平次捕物控 225 女護の島異変

野村胡堂

「親分、面白い話がありますよ」 お馴染のガラツ八こと八五郎、髷節へ赤蜻蛉を留めたまゝ、明神下の錢形平次の家へ、庭木戸を押しあけて、ノソリと入つて來ました。庭一パイの秋の陽に、長んがい影法師を泳がせて、この上もなく太平無事な姿です。 「髷節を赤蜻蛉の逢引場所にしてゐるやうな野郎だもの、この世の中が面白くてたまらねえことだらうよ」 平次は腰から下だけ椽側に出して

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銭形平次捕物控 226 名画紛失

野村胡堂

「八、大變なことがあるさうぢやないか」 江戸開府以來と言はれた、捕物の名人錢形平次は、粉煙草の煙りを輪に吹きながら、いとも寛々たる態度で、飛び込んで來た子分の八五郎に、かう浴びせるのでした。 あわて者の八五郎、一名ガラツ八は、平次のためには『見る眼嗅ぐ鼻』で、その天稟の勘を働かせて、江戸中のニユースを嗅ぎ出して持つて來るのですが、生憎なことに今日は恐ろしい不

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銭形平次捕物控 229 蔵の中の死

野村胡堂

「親分、驚いちやいけませんよ」 毎日江戸中のニユースを掻き集めて、八丁堀の組屋敷から、南北兩町奉行所まで、萬遍なく驅け廻らなきや、足がムズムズして寢つかれないといふ、小判形の八五郎こと、一名順風耳のガラツ八です。 「驚かないよ。お前と附き合つて一々驚いてゐた日にや、膽つ玉の掛け替へが二三束あつたつて足りやしまい。どこの鼠が猫の子を捕つたんだ」 錢形平次――江

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銭形平次捕物控 230 艶妻伝

野村胡堂

「親分、あツしもいよ/\來年は三十ですね」 錢形平次の子分、愛稱ガラツ八こと八五郎は、つく/″\こんなことを言つて、深刻な顏をするのでした。 「馬鹿だなア、松が取れたばかりぢやないか。そんなのは年の暮に出て來る臺詞だよ」 平次は相變らずの調子で、相手になつてやりながら、この男のトボケた口から、江戸八百八町に起つた――あるひは起りつゝある、もろ/\の事件の匂ひ

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銭形平次捕物控 231 鍵の穴

野村胡堂

「わツ驚いたの驚かねえの」 ガラツ八といふ安値な異名で通る八五郎は、五月の朝の陽を一パイに浴びた格子の中へ、張板を蹴飛ばして、一陣の疾風のやうに飛び込むのでした。 「此方が番毎驚くぜ。何んだつて人の家へ來るのに、鳴物入りで騷がなきやならないんだ」 親分の錢形平次は、さう口小言をいひながらも、さして驚く樣子もなく、淺間な家の次の間から、機嫌の良い笑顏を見せるの

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銭形平次捕物控 232 青葉の寮

野村胡堂

「親分、この世の中といふものは――」 愛稱ガラツ八の八五郎が、お先煙草を五匁ほど燻じて、鐵瓶を一パイ空つぽにして、さてこんな事を言ひ出すのです。 「止せやい、道話の枕ぢやあるめえし、『この世の中』が聞いて呆れるぜ」 錢形平次は相手にもしませんでした。江戸開府以來と言はれた捕物の名人ですが、無精で貧乏で、人を縛らないのを建前にしてゐる世にも不思議な御用聞の平次

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銭形平次捕物控 233 鬼の面

野村胡堂

「親分、良い新造が來たでせう。かう小股のきれ上がつた、色白で、ポチヤポチヤした」 「馬鹿野郎」 錢形平次は思はず一喝を食はせました。上がり框から這ひ込むやうに、まだ朝の膳も片付かない茶の間を覗きながら八五郎は途方もないことを訊くのです。 「でも、あんな可愛らしいのはちよいと神田中にもありませんよ、あつしが知らないくらゐだから。餘つ程遠くから來たに違げえねえと

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銭形平次捕物控 233 鬼の面

野村胡堂

「親分、良い新造が来たでしょう、こう小股の切上った、白色で、ポチャ/\した」 「馬鹿野郎」 銭形平次は思わず一喝を食わせました。上り框から這い込むように、まだ朝の膳も片付かない茶の間を覗きながら八五郎は途方もないことを訊くのです。 「でも、あんな可愛らしいのはちょいと神田中にもありませんよ、あっしが知らない位だから。よっぽど遠くから来たに違えねえと思うんだが

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銭形平次捕物控 236 夕立の女

野村胡堂

江戸八百八丁が、たつた四半刻のうちに洗ひ流されるのではあるまいか――と思ふほどの大夕立でした。 「わツ、たまらねえ。何處かかう小鬢のあたりが焦げちやゐませんか、見て下さいよ」 一陣の腥さい風と一緒に、飛沫をあげて八五郎が飛び込んで來たのです。 「あツ、待ちなよ。そのなりで家の中へ入られちやたまらない――大丈夫、鬢の毛も顎の先も別條はねえ。雷鳴だつて見境があら

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銭形平次捕物控 236 夕立の女

野村胡堂

江戸八百八町が、たった四半刻のうちに洗い流されるのではあるまいか――と思うほどの大夕立でした。 「わッ、たまらねえ、何処かこう小鬢のあたりが焦げちゃ居ませんか、見て下さいよ」 一陣の腥い風と一緒に、飛沫をあげて八五郎が飛込んで来たのです。 「あッ、待ちなよ、そのなりで家の中へ入られちゃたまらない――大丈夫、鬢の毛も顎の先も別条はねえ、鳴神だって見境があらァな

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銭形平次捕物控 237 毒酒薬酒

野村胡堂

運座の帰り、吾妻屋永左衛門は、お弓町の淋しい通りを本郷三丁目の自分の家へ急いで居りました。 八朔の宵から豪雨になって亥刻(十時)近い頃は漸く小止みになりましたが、店から届けてくれた呉絽の雨合羽は内側に汗を掻いて着重りのするような鬱陶しさ――。 永左衛門は運座で三才に抜けた自分の句を反芻しながら、それでも緩々たる気持で足を運んで居りました。 眠そうな供の小僧を

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