Vol. 2May 2026

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黒蜥蜴

江戸川乱歩

この国でも一夜に数千羽の七面鳥がしめられるという、あるクリスマス・イヴの出来事だ。 帝都最大の殷賑地帯、ネオン・ライトの闇夜の虹が、幾万の通行者を五色にそめるG街、その表通りを一歩裏へ入ると、そこにこの都の暗黒街が横たわっている。 G街の方は、午後十一時ともなれば、夜の人種にとってはまことにあっけなく、しかし帝都の代表街にふさわしい行儀よさで、ほとんど人通り

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鏡地獄

江戸川乱歩

「珍らしい話とおっしゃるのですか、それではこんな話はどうでしょう」 ある時、五、六人の者が、怖い話や、珍奇な話を、次々と語り合っていた時、友だちのKは最後にこんなふうにはじめた。ほんとうにあったことか、Kの作り話なのか、その後、尋ねてみたこともないので、私にはわからぬけれど、いろいろ不思議な物語を聞かされたあとだったのと、ちょうどその日の天候が春の終りに近い

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自作解説 怪人二十面相と少年探偵団

江戸川乱歩

表題の私の少年探偵小説について何か書くように勧められたが、私は三、四年来、病気でひきこもっていて、手足が不自由なため、筆が執れないので、手紙の返事などは、家族のものに代筆してもらっているような、ありさまである。以下の文章は拙著「探偵小説四十年」(千部限定、昭和三十六年、桃源社)の昭和十一年の章に「初めての少年もの」という見出しで書いたものがあるので、それに原

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江戸川乱歩

この話は、柾木愛造と木下芙蓉との、あの運命的な再会から出発すべきであるが、それについては、先ず男主人公である柾木愛造の、いとも風変りな性格について、一言して置かねばならぬ。 柾木愛造は、既に世を去った両親から、幾何の財産を受継いだ一人息子で、当時二十七歳の、私立大学中途退学者で、独身の無職者であった。ということは、あらゆる貧乏人、あらゆる家族所有者の、羨望の

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何者

江戸川乱歩

作者の言葉 犯人は最初から読者の目の前にいながら最後までどれが犯人だか分らない。と云うのが所謂本格探偵小説の一つの条件みたいになっています。なるべくその条件に適わせることを心掛けました。敏感な読者は四五回も読まぬ内に犯人が分ってしまうかも知れません。又探偵小説に不慣れな読者には、最後までそれが分らないかも知れません。丁度その辺の所を狙ってある訳です。知識的遊

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黄金仮面

江戸川乱歩

作者――江戸川乱歩氏曰く 私は、最近、従来の「小探偵小説」を脱して、もっと舞台の広い「大探偵小説」へ進出したいと思っている。今回の『黄金仮面』は実にその第一歩である。 本篇活躍の主人公は、例のお馴染の素人探偵明智小五郎であるが、彼も段々に成長しつつある。今度の小説では相当大きい活躍が出来る筈だ。相手役の悪魔は恐らく読者を驚かせるに足る人物だと信じている。作者

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悪魔の紋章

江戸川乱歩

法医学界の一権威宗像隆一郎博士が、丸の内のビルディングに宗像研究室を設け、犯罪事件の研究と探偵の事業を始めてからもう数年になる。 同研究室は、普通の民間探偵とは違い、其筋でも手古摺るほどの難事件でなければ、決して手を染めようとはしなかった。所謂「迷宮入り」の事件こそ、同研究室の最も歓迎する研究題目であった。宗像博士は、研究室開設第一年にして、すでに二つの難事

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ふしぎな人

江戸川乱歩

きむらたけしくんは、しょうがっこうの二ねん生で、とうきょうのひろいおうちにすんでいました。 おとうさんは、あるかいしゃのしゃちょうさんです。 きむらたけしくんのおうちのちかくに、ふしぎなせいようかんがあって、そこにふしぎな人がすんでいました。 二かいだてのふるいせいようかんで、そのまわりは、木のいっぱいはえたにわでかこまれていました。 このふしぎないえのふし

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透明怪人

江戸川乱歩

そのふたりの少年は、あんなこわいめにあったのは、生まれてからはじめてでした。 春のはじめの、ある日曜日、小学校六年の島田君と木下君は、学校の先生のおうちへあそびにいって、いろいろおもしろいお話を聞き、夕方になって、やっと先生のうちを出ました。そのかえり道の出来事です。 「おや、へんだね、こんな町、ぼく一度も通ったことがないよ。」 島田君がふしぎそうに、あたり

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怪人二十面相

江戸川乱歩

そのころ、東京中の町という町、家という家では、ふたり以上の人が顔をあわせさえすれば、まるでお天気のあいさつでもするように、怪人「二十面相」のうわさをしていました。 「二十面相」というのは、毎日毎日、新聞記事をにぎわしている、ふしぎな盗賊のあだ名です。その賊は二十のまったくちがった顔を持っているといわれていました。つまり、変装がとびきりじょうずなのです。 どん

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かいじん二十めんそう

江戸川乱歩

あるおひるすぎのことです。 東京のまつなみ小学校のこうていで、みんながあそんでいました。 休み時間なので、一年生から六年生まで、かけまわったり、キャッチボールをしたり、きかいたいそうをしたりして、あそんでいたのです。 「あっ、ヘリコプターだっ」 だれかがさけびました。 「ほんとだ。ヘリコプターだ」 口々にさけびながら、みんな空を見上げました。 よくはれたまっ

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かいじん二十めんそう

江戸川乱歩

ある日、しょうねんたんていだんのぽけっと小ぞうは、ひとりで、さびしいのはらをあるいていました。 ぽけっと小ぞうは、小がっこう四ねんせいですが、ようちえんのせいとみたいにからだが小さくて、ぽけっとにでもはいりそうだというので、こんなあだながついているのです。 のはらには、はやしがあって、そのむこうに、りっぱなようかんがたっていました。 大きな三がいだてのいえで

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指環

江戸川乱歩

A 失礼ですが、いつかも汽車で御一緒になった様ですね。B これは御見それ申しました。そういえば、私も思い出しましたよ。やっぱりこの線でしたね。A あの時は飛んだ御災難でした。B いや、お言葉で痛み入ります。私もあの時はどうしようかと思いましたよ。A あなたが、私の隣の席へいらしったのは、あれはK駅を過ぎて間もなくでしたね。あなたは、一袋の蜜柑を、スーツケース

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幽霊

江戸川乱歩

「辻堂の奴、とうとう死にましたよ」 腹心のものが、多少手柄顔にこう報告した時、平田氏は少からず驚いたのである。尤も大分以前から、彼が病気で床についた切りだということは聞いていたのだけれど、それにしても、あの自分をうるさくつけ狙って、仇を(あいつは勝手にそう極めていたのだ)うつことを生涯の目的にしていた男が、「彼奴のどてっ腹へ、この短刀をぐっさりと突きさすまで

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夢遊病者の死

江戸川乱歩

彦太郎が勤め先の木綿問屋をしくじって、父親の所へ帰って来てからもう三ヶ月にもなった。旧藩主M伯爵邸の小使みたいなことを勤めてかつかつ其日を送っている、五十を越した父親の厄介になっているのは、彼にしても決して快いことではなかった。どうかして勤め口を見つけ様と、人にも頼み自分でも奔走しているのだけれど、折柄の不景気で、学歴もなく、手にこれという職があるでもない彼

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百面相役者

江戸川乱歩

僕の書生時代の話しだから、随分古いことだ。年代などもハッキリしないが、何でも、日露戦争のすぐあとだったと思う。 その頃、僕は中学校を出て、さて、上の学校へ入りたいのだけれど、当時まだ僕の地方には高等学校もなし、そうかといって、東京へ出て勉強させてもらう程、家が豊でもなかったので、気の長い話しだ、僕は小学教員をかせいで、そのかせぎためた金で、上京して苦学をしよ

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一人二役

江戸川乱歩

人間、退屈すると、何を始めるか知れたものではないね。 僕の知人にTという男があった。型の如く無職の遊民だ。大して金がある訳ではないが、まず食うには困らない。ピアノと、蓄音器と、ダンスと、芝居と、活動写真と、そして遊里の巷、その辺をグルグル廻って暮している様な男だった。 ところで、不幸なことに、この男、細君があった。そうした種類の人間に、宿の妻という奴は、いや

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白昼夢

江戸川乱歩

あれは、白昼の悪夢であったか、それとも現実の出来事であったか。 晩春の生暖い風が、オドロオドロと、火照った頬に感ぜられる、蒸し暑い日の午後であった。 用事があって通ったのか、散歩のみちすがらであったのか、それさえぼんやりとして思い出せぬけれど、私は、ある場末の、見る限り何処までも何処までも、真直に続いている、広い埃っぽい大通りを歩いていた。 洗いざらした単衣

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二癈人

江戸川乱歩

二人は湯から上って、一局囲んだ後を煙草にして、渋い煎茶を啜りながら、何時の様にボツリボツリと世間話を取交していた。穏かな冬の日光が障子一杯に拡って、八畳の座敷をほかほかと暖めていた。大きな桐の火鉢には銀瓶が眠気を誘う様な音を立てて沸っていた。夢の様にのどかな冬の温泉場の午後であった。 無意味な世間話が何時の間にか懐旧談に入って行った。客の斎藤氏は青島役の実戦

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日記帳

江戸川乱歩

ちょうど初七日の夜のことでした。私は死んだ弟の書斎に入って、何かと彼の書き残したものなどを取出しては、ひとり物思いにふけっていました。 まだ、さして夜もふけていないのに、家中は涙にしめって、しんと鎮まり返っています。そこへ持って来て、何だか新派のお芝居めいていますけれど、遠くの方からは、物売りの呼声などが、さも悲しげな調子で響いて来るのです。私は長い間忘れて

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盗難

江戸川乱歩

面白い話しがあるのですよ。私の実験談ですがね。こいつを何とかしたら、あなたの探偵小説の材料にならないもんでもありませんよ。聞きますか。エ、是非話せって。それじゃ至って話し下手でお聞きづらいでしょうが、一つお話しましょうかね。 決して作り話しじゃないのですよ。と、お断りする訳は、この話はこれまで、度々人に話して聞かせたことがあるのですが、そいつがあんまり作った

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算盤が恋を語る話

江戸川乱歩

○○造船株式会社会計係のTは今日はどうしたものか、いつになく早くから事務所へやって来ました。そして、会計部の事務室へ入ると、外とうと帽子をかたえの壁にかけながら、如何にも落ちつかぬ様子で、キョロキョロと室の中を見まわすのでした。 出勤時間の九時に大分間がありますので、そこにはまだたれも来ていません。沢山並んだ安物のデスクに白くほこりのつもったのが、まぶしい朝

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