Vol. 2May 2026

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公共领域世界知识图书馆

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当選作所感

平林初之輔

はじめの方は、私にはそうとう読みづらかったが三分の一くらいまでくるとだんだん面白くなって、ついひきずられて読んでしまった。なかなか手にいった書きかたで、作者の並々ならぬ手腕を偲ばせるところもあるが、私は、主として不満に感じた点だけをならべる。 まず全体の筋が「あやかしの皷」につきまとう、因果ばなしめいた一連のお噺であるのが、私にはもの足りない。皷の「崇り」な

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当選の日

太宰治

こんど、國民新聞の短篇小説コンクールに當選したので、その日のことを、正直に書いて見ようと思ふ。私は、ことしのお正月に、甲府の人と平凡な見合ひ結婚をして、けれども私には一錢の貯金も無し、すぐに東京で家を持つわけに行かなかつた。家の敷金として、百圓くらゐ用意しなければならぬし、その他家財道具一切を買はなければならぬし、そのためには、どうしても、もう百圓は必要であ

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彗星の話

豊島与志雄

彗星の話 豊島与志雄 一 むかし、ギリシャの片田舎に、ケメトスという人がいました。小さい時に両親を失って、お祖父さんの手で育てられていましたが、非常な乱暴者で、近所の子供達と喧嘩をしたり、他人の果樹園に忍び込んで、林檎や無花果の実を盗んだり、野山を駆け廻ったりして、その日その日を遊び暮らしていました。 お祖父さんは非常に心配して、いろいろ言い聞かせましたけれ

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形容詞の論 ――語尾「し」の発生――

折口信夫

文法上に於ける文章論は、非常に輝かしい為事の様に見られてゐる。其が、美しい関聯を持つて居る点に於いて、恰、文法の哲学とでも言ふ様に、意味深く見られてゐるやうだ。私は常に思ふ。文章論は言語心理学の領分に入れるべきもので、文法から解放せられなければならない。文法は結局、形式論に初つて形式論に終る事を、覚悟してかゝらなければならないのである。総ての学問のうちに、最

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形態について

豊島与志雄

形態について 豊島与志雄 或る一つの文学作品中の主要人物について例えば五人の画家にその肖像を描かせるとすれば、恐らくは、可なり異った五つの肖像が得られるだろう。この五つの肖像が必然的に似てくるようなもの――実在の人物をモデルとする五つの肖像が互に似てくるようなもの――そんなものは、作品の中には余り存在しないのである。もしもそういうものが存在するとすれば、場所

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ミケランジェロの彫刻写真に題す

高村光太郎

ミケランジェロの彫刻写真に題す 高村光太郎 ミケランジェロこそ造型の権化である。 造型の中の造型たる彫刻は従ってミケランジェロの生来を語るものであり、ミケランジェロの他の営為――土木、建築、絵画、詩歌の類はすべて彼の彫刻家的幽暗の根源から出ている。彼の眼に映ずる世界は一切彫刻的形象としてうけ入れられ、彼の精神の訴は一切彫刻的形象の様相を以て語られる。此の場合

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彫刻家の見たる美人

荻原守衛

彫刻家の見たる美人 荻原守衞 美人彫刻家として有名なのはまづ佛蘭西の、ゼロームを推さねばなるまいが、其彫刻は矢張り端麗とか、優美とかに重きを置いたクラシカルのもので、美人を其まゝ美人として現はしたものは希臘の昔に溯らねばならぬ。希臘には雄壯なることアポロのやうなものもあるが、又ミローや、メディスのヴィナス、デアナの如うな美しい女神もある。 さて斯かる美人を彫

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豊島与志雄

影 豊島与志雄 叔父達が新らしい家へ移転してすぐに、叔父は或る公務を帯びて、二ヶ月ばかり朝鮮の方へ旅することになりました。勿論この旅行は前から分っていましたが、その出発の間際に、前々から探していた適当な貸家が見当ったので、慌しく其処へ引越して、まだ荷物もよく片付かない三日目の朝、叔父は特急の列車で朝鮮へ出発しました。そして新らしい家の中には、叔母と八歳になる

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ラムプの影

正岡子規

ラムプの影 正岡子規 病の牀に仰向に寐てつまらなさに天井を睨んで居ると天井板の木目が人の顔に見える。それは一つある節穴が人の眼のやうに見えてそのぐるりの木目が不思議に顔の輪郭を形づくつて居る。其顔が始終目について気になつていけないので、今度は右向に横に寐ると、襖にある雲形の模様が天狗の顔に見える。いかにもうるさいと思ふて其顔を心で打ち消して見ると、襖の下の隅

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ランプの影

正岡子規

病の牀に仰向に寐てつまらなさに天井を睨んで居ると天井板の木目が人の顔に見える。それは一つある節穴が人の眼のように見えてそのぐるりの木目が不思議に顔の輪廓を形づくって居る。その顔が始終目について気になっていけないので、今度は右向きに横に寐ると、襖にある雲形の模様が天狗の顔に見える。いかにもうるさいと思うてその顔を心で打ち消して見ると、襖の下の隅にある水か何かの

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ものの影

豊島与志雄

ものの影 豊島与志雄 池、といっても、台地の裾から湧き出る水がただ広くたまってる浅い沼で、その片側、道路ぞいに、丈高い葦が生い茂り、中ほどに、大きな松が一本そびえている。そのへんを、俗に一本松と呼ばれていて、昼間は田舎びた風情があり、夜分はちと薄気味わるい。 この一本松のところを、或る夜遅く、島野彦一は通りかかった。焼酎にしたたか酔って、頭脳はからっぽ、足は

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影法師

豊島与志雄

影法師 豊島与志雄 一 うしろに山をひかえ前に広々とした平野をひかえてる、低いなだらかな丘の上に、小さな村がありました。村の東の端に、村一番の長者の屋敷がありまして、その塀の外の広場は、子供たちの遊び場所でした。 白く塗った土塀、左手はゆるやかな山すそで、いろんな灌木や草がはえています。前には小さな川が流れていて、魚が泳いでいます。川の向こうと右手の方には、

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影のない犯人

坂口安吾

この温泉都市でたぶん前山別荘が一番大きな別荘だろう。その隣に並木病院がある。この病院でその晩重大な会議がひらかれていた。集る者、三名。主人の並木先生(五十五歳)剣術使いの牛久玄斎先生(七十歳)一刀彫の木彫家で南画家の石川狂六先生(五十歳)いずれも先生とよばれるほどの三氏である。 「アナタがバカなことを口走るものだから、こういうことになったのですぞ」と並木先生

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影絵

富永太郎

半缺けの日本の月の下を、 一寸法師の夫婦が急ぐ。 二人ながらに 思ひつめたる前かゞみ、 さても毒々しい二つの鼻のシルヱツト。 生白い河岸をまだらに染め抜いた、 柳並木の影を踏んで、 せかせかと――何に追はれる、 揃はぬがちのその足どりは? 手をひきあつた影の道化は あれもうそこな遠見の橋の 黒い擬宝珠の下を通る。 冷飯草履の地を掃く音は もはや聞えぬ。 半缺

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影絵師

桜間中庸

俊坊はをぢさんの手にぶら下りながら、夜の街通りをゆきました。 海岸へつゞいてゐる通りはアスフアルトの上に打ち水がしてあつて海から吹いてくる風がそのまゝ街の灯にぬれながら凉しく通つてゆきました。 散歩の人たちで街は賑はつて居りました。 常設館からは樂隊の音が流れ出て居りました。お菓子を釣る起重機が二つ、お菓子屋さんの店さきに並んでゐて、白い帽子をかむつた子供が

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彷徨へる

徳田秋声

芸術論や人生論をやる場合にも劣らぬ否寧ろそれよりもかに主観的に情熱の高まつて来るのは、彼が先輩G――の愛人I子の噂をする時の態度であつたが、その晩彼は彼自身の恋愛的事件について、仄かな暗示をG――に与へたのであつた。G――はI子とちよつと遠ざかつてゐるやうな場合に、I子に関して、共鳴を惜しまない、彼と語るのが一つの慰安であり救ひであつた。彼とはG――の最も愛

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役人学三則

末弘厳太郎

役人学三則 末弘厳太郎 ××君 いよいよお役所勤めをされるようになったそうでまことに結構です。ご両親もさだめしお喜びのことと思います。ところでお手紙によると、役人として必要な心得をきかせろというご注文ですが、不幸にしていわゆる役人生活の経験をもたない私には、とうてい官海游泳術その他手近にお役に立つようなことを申し上げる資格がありませんから、ただ平素外部から役

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役人の頭

末弘厳太郎

役人の頭 末弘厳太郎 「法治主義」の研究は、現代の国家および法律を研究せんとする者にとって、きわめて大切である。私がそのことをいろいろと考えていた際、たまたま東京日日新聞社から何か書けという依頼を受けて、ふと筆をとったのがそもそも本稿の出来上った由来であって、内容は主として法治国と官僚主義との関係を取り扱ったものである。書いた時期は大正一一年の六月下旬である

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役者の一生

折口信夫

役者の一生 折口信夫 一 沢村源之助の亡くなったのは昭和十一年の四月であったと思う。それから丁度一年経って木村富子さんの「花影流水」という書物が出た。木村富子さん、即、錦花氏夫人は今の源之助の継母かに当る人であるから、よい書物の筈である。此には「演芸画報」に載った源之助晩年の芸談なる「青岳夜話」を其儘載せてある。これには又、彼の写真として意味のあるのを相当に

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役者の一生

折口信夫

沢村源之助の亡くなつたのは昭和十一年の四月であつたと思ふ。それから丁度一年経つて木村富子さんの「花影流水」といふ書物が出た。木村富子さん、即、錦花氏夫人は今の源之助の継母かに当る人であるから、よい書物の筈である。此には「演芸画報」に載つた源之助晩年の芸談なる「青岳夜話」を其儘載せてある。これには又、彼の写真として意味のあるのを相当に択んで出してゐる。成程、源

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役者の顔

木村荘八

役者の顔 木村荘八 羽左衛門を失ったことを転機として――戦争を転機としてと云えば早いが、それではニベも無い――俳優の「顔」も変ったと思います。「俳優」もここには主として歌舞伎(旧劇)畑を云いますが、「顔」を材料にとって述べれば、自然歌舞伎俳優が主となるのは定法でもありましょう。 羽左衛門は、思えば寂しい中で亡くなりました。羽左衛門の死については、文壇で云えば

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彼女の周囲

徳田秋声

彼女の姉だといふ人が、或る日突然竹村を訪ねて来た。 竹村には思ひがけない事であつたが、しかし彼女に若し姉とか兄とかいふ近親の人があるなら、その誰かゞ彼を訪ねてくるのに不思議はない筈であつた。それほど「彼女」は不幸な位置に立たせられてゐた。 彼女といふのは、竹村の若い友人大久保の細君奈美子のことであつた。或ひは世間で言ふ内縁の妻と言つた方が適当かも知れなかつた

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彼女たち・そしてわたしたち ロマン・ロランの女性

宮本百合子

わたしは、もう久しい間、いつかはそのような仕事もしてみたいと思っている一つのたのしみがある。それは、ロマン・ロランによって描かれている魅力のふかい多勢の女性たちについて、こまかくよみくらべ、おどろくような多様さでいのちづけられている彼女たちの存在の意味をこんにちの歴史の中で明瞭にしてみたいという考えである。 一九一七年に、そのころ後藤末雄氏によって訳された「

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