Vol. 2May 2026

图书

公共领域世界知识图书馆

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玩具

原民喜

終にあたりは冴えてしまった。今、二〇ワットの電燈の下に両方の壁が聳え立ち、窓は鎖され、扉には鍵がかけてある。さうすると、彼を囲繞する四畳半の鬼気が、彼を憫笑してくれるのであった。 彼は今日街に出て一人の婦人と恋の散歩をした。彼はぜんまい仕掛けの紳士よろしく、巧みなゼスチュアと頭に残らないやうな会話とで、愉しい時間を持つことが出来た。婦人はゴム人形のやうに溌剌

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玩具

太宰治

玩具 太宰治 どうにかなる。どうにかなろうと一日一日を迎えてそのまま送っていって暮しているのであるが、それでも、なんとしても、どうにもならなくなってしまう場合がある。そんな場合になってしまうと、私は糸の切れた紙凧のようにふわふわ生家へ吹きもどされる。普段着のまま帽子もかぶらず東京から二百里はなれた生家の玄関へ懐手して静かにはいるのである。両親の居間の襖をする

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『玩具』あとがき

太宰治

所收――「玩具」「魚服記」「地球圖」「猿ヶ島」「めくら草紙」「皮膚と心」「きりぎりす」「畜犬談」 「玩具」から「めくら草紙」に到る五篇は、私の第一創作集「晩年」から選び出した作品である。サンボリズムのにほひが強いやうに思はれる。卷頭の「玩具」などは、散文詩とでもいふべきもののやうに思はれる。「めくら草紙」は、書いてゐる時には實に悲しい氣持であつたが、いま讀む

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玩具の汽缶車

竹久夢二

玩具の汽缶車 竹久夢二 お庭の木の葉が、赤や菫にそまったかとおもっていたら、一枚散り二枚落ちていって、お庭の木はみんな、裸体になった子供のように、寒そうに手をひろげて、つったっていました。 つづれさせさせ   はやさむなるに あの歌も、もう聞かれなくなりました。北の山の方から吹いてくる風が、子供部屋の小さい窓ガラスを、かたかたいわせたり、畑の唐もろこしの枯葉

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玩具の賦 昇平に

中原中也

どうともなれだ 俺には何がどうでも構はない どうせスキだらけぢやないか スキの方を減さうなんてチヤンチヤラ可笑しい 俺はスキの方なぞ減らさうとは思はぬ スキでない所をいつそ放りつぱなしにしてゐる それで何がわるからう 俺にはおもちやが要るんだ おもちやで遊ばなくちやならないんだ 利得と幸福とは大体は混る だが究極では混りはしない 俺は混らないとこばつかり感じ

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珈琲の値上り

中谷宇吉郎

一年ぶりに研究所へ顏を出してみたら、大分人數が殖えて、賑やかになっていた。しかし、雰圍氣は昔どおりで、まず芽出たいことであった。唯一つちがったことは、珈琲が値上りになっていたことである。 もちろんアメリカ國内の珈琲が高くなったわけではなく、研究所内で飮む珈琲が値上りしたのである。といっても、何のことか分からないかもしれないが、それにはまずこの研究所の珈琲制度

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珈琲店より

高村光太郎

珈琲店より 高村光太郎 例の MONTMARTRE の珈琲店で酒をのんで居る。此頃、僕の顔に非常な悲しみが潜んでゐるといつた君に、僕の一つの経験を話したくなつた。まあ読んでくれたまへ。 OPRA のはねたのが、かれこれ、十二時近くであつた。花の香ひと、油の香ひで蒸される様に暖かつた劇場の中から、急に往来へ出たので、春とはいひながら、夜更けの風が半ば気持ちよく

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珊瑚

蒲松齢

安大成は重慶の人であった。父は孝廉の科に及第した人であったが早く没くなり、弟の二成はまだ幼かった。大成は陳姓の家から幼な名を珊瑚という女を娶ったが、大成の母の沈というのは、感情のねじれた冷酷な女で、珊瑚を虐待したけれども、珊瑚はすこしも怨まなかった。そして、朝あさ早く起きては身じまいをして、母の所へ挨拶にいった。 大成がその時病気になった。母は珊瑚がみだらで

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珊瑚集 仏蘭西近代抒情詩選

永井荷風

シヤアル・ボオドレヱル 蝸牛匍ひまはる泥土に、 われ手づからに底知れぬ穴を掘らん。 安らかにやがてわれ老いさらぼひし骨を埋め、 水底に鱶の沈む如忘却の淵に眠るべし。 われ遺書を厭み墳墓をにくむ。 死して徒に人の涙を請はんより、 生きながらにして吾寧ろ鴉をまねぎ、 汚れたる脊髄の端々をついばましめん。 あゝ蛆虫よ。眼なく耳なき暗黒の友、 汝が為めに腐敗の子、放

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「珊瑚集」解説

佐藤春夫

荷風先生は毅然たる現実主義精神を抱いた散文作家であると同時に、一面には嫋々たる抒情詩人である。この両面を解して後はじめて先生が真面目に接し得られるというべきである。先生のすべての傑作はみなこの両面がさまざまな釣合を保ちながら渾然融和の妙趣を発揮している。いずれも散文精神の伴奏として陰翳のような役割をしている先生の詩情が、詩の形をとって真正面から打ち出されたも

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珍しい酒もり

小川未明

北の国の王さまは、なにか目をたのしませ、心を喜ばせるような、おもしろいことはないものかと思っていられました。毎日、毎日、同じような、単調な景色を見ることに怠屈されたのであります。 このとき、南の国へ使いにいった、家来が帰ってまいりました。なにかおもしろい話を持ってこないかと、さっそく、その家来にご面会になりました。 「ご苦労だった。無事にいってこられて、なに

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素木しづ

珠 素木しづ 丁度夏に向つてる、すべての新鮮な若葉とおなじやうに、多緒子の産んだ赤ん坊は生き/\と心よく康やかに育つた。そしてそれと同時に産後思はしくなかつた彼女の肉體も恢復して來ると、ながい間産前から産後、そしていまもなほ引つゞいてゐる、いろ/\涙ぐましい堪へがたいなやみも、忙しい雜事の爲めにとりまぎれて、思ひつめる事も少なくなつた。 多緒子は産後思はしく

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珠玉の如き

牧野信一

奥深い芸術の殿堂であつた。 山門をくゞり、径道をのぼつて、堂のほとりに達すると、常緑樹の翠の香が煙りの如く漂ふてゐた。 薄暗い廻廊を幾曲りして、(おゝこれは何といふ手のこんだ誤り易い、困難な、そして厄介な廊下であることよ。訪者は、ムカツ肚をたてゝ引き返すことがある、疳癪の舌打ちをして引き返すことがある、道に迷つて逃げ出すことがある……)漸く主の房に達すると、

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現下文壇と探偵小説

平林初之輔

探偵小説は、英米では、ポー、スティーブンソンにはじまり、コナン・ドイルによって、近代小説の一つのカテゴリーとして、その存在を確立した。 仏国では、ガボリオ、ボアコベらが十九世紀中葉に、既に純粋な探偵小説作家として一家をなし、ガストン・ルルー、モーリス・ルブランの現在に及んでいる。 その他、探偵小説の語義を拡大して、犯罪文学という風に解するならば、世界のすぐれ

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現下に於ける童話の使命

小川未明

この度、日本国民童話協会が創立されまして衷心からお喜びの言葉を申し上げます。就きましては、この機会に聊か私見を述べ、またこれからさき出発せられる皆様に対して希望を申し上げ度いと思うのであります。 今迄童話をお話になる皆様は、各各所に於いて特色を発揮され、民衆の教化又子供の教化に当たられて来たのであります。そうしてそれぞれ立派な仕事をなされて来たのであります、

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現今の少女小説について

宮本百合子

現今の少女小説について 宮本百合子 今行われる少女小説について私は自分の荷にあまるほどいろいろの事を考えさせられるんです。 一寸行きずりに本屋の店をのぞいても飾ってある少女小説の数はほんとうに沢山でそれで又何故だか、「何子の涙」だとか、「何この歎」だのって云うのばかりですねえ。 少女小説って名のつくのは皆、涙だの、歎だのって云うんでなければいけないきまりが有

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現代とは?

坂口安吾

現代とは? 坂口安吾 伝統の否定と一口に言うけれども、伝統は全て否定しなければならぬというものではなくて、すでに実質を失いながら虚妄の空位を保って信仰的な存在をつゞけていることが反省され否定されなければならぬというだけだ。実質あるものは否定の要なく、又、伝統に限らず、全て、実質を失いながら虚妄の権威を保つものは、反省され、否定される必要があるだけだ。 時代の

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現代の主題

宮本百合子

現代の主題 宮本百合子 民主日本の出発ということがいわれてから一年が経過した。日本の旧い支配者たちがポツダム宣言を受諾しなければならなくなって、日本の民衆はこれまでの時々刻々、追い立てられていた不安な戦争の脅威から解放された。戦争が不条理に拡げられ、欺瞞がひどくなるにつれて、日本じゅうの理性を沈黙させ、それをないものにしていた治安維持法が撤廃された記念すべき

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現代作家に対する批判と要求 全人間的な体現を (その一、芥川竜之介氏)

南部修太郎

忌憚なく云ふと、私は現在の芥川龍之介氏の芸術に対して何にも云ひたくはないのである。と云ふのは、私は三四年前からそれに対しては機会あるごとに思ふ処を述べて来た。そして、その思ふ処は現在に於ても何等の変化を持たないのである。で、今更に批判と云ひ、要求と云ふも、それは私にとつては要するに前言の反覆に過ぎないからである。また若しこの一文が芥川氏に読まれる事を本旨とす

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現代劇のない日本

岸田国士

現代劇のない日本 岸田國士 日本中の劇場で、これまで「現代劇」をやつたことがないと云へば、確かにそこ此処から異論が出るだらうと思ひますが、私は、それでも、「日本は現代劇なし」と明言します。 その理由はかうです。 先づ、これまで、「新劇」と呼ばれてゐた、歌舞伎でも新派でもない芝居――それは概して、西洋劇の翻訳と若干の創作劇を含むものですが――は、これを脚本とし

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現代史の蝶つがい 大統領選挙の感想

宮本百合子

こんどのアメリカ大統領選挙でトルーマンが勝利したことは、デューイをおどろかしたばかりでなく、日本の一部のジャーナリストをだいぶめんくらわせたらしかった。日本時間で十一月四日の午前、トルーマン当選確定となったあと、東京のあちこちの印刷屋に駈けつけてとりいそぎ目下進行中の新年号の雑誌の特輯の中から大統領ときめこんでとりあつかったデューイの、或はデューイ氏に関する

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現代大衆劇は斯くして生れる 中村正常君に答ふ

岸田国士

新しき「新派」――現代大衆劇――がなぜ起らないかといへば、その第一の理由は、さういふものが現在の日本に欠けてゐることを、劇壇の人々は嘗て問題にせず、大衆も亦さういふ演劇への要求を示さずにゐるからでせう。 実際、今日までの新劇は、一面、さういふ方向をとつて差支なかつたのですが、新劇の当事者は、常々殆ど西洋の「非大衆劇」――言ひ換へれば「前衛派」の運動を追つてゐ

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現代女性に就いて

宮本百合子

現代女性に就いて 宮本百合子 もとから女の生活には様々の困難な社会的事情があって、その困難性を自覚している婦人にはそれとしての、又自覚しない部分には自覚しないことから来ている沢山の困難がありました。この頃の社会の事情は女としての困難解決の方向を知っているひとでも目前に方法がつかないような特殊の苦痛がありますが、どうかその苦痛にまけたことを一つの自嘲的なポーズ

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