小宮豊隆
小宮豊隆 · 日语
小宮豊隆 · 日语
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原文 (日语)
吉右衛門に初めて会つた時の印象を書いてくれといふ注文を受けたのであるが、その後引き続いてずつと会つてゐるせゐか、今私の頭の中にある「吉右衛門」の内のどの部分が第一印象の「吉右衛門」で、どの部分がその後の印象の「吉右衛門」であるか、どうも判然と区別をつける事が出来ない。古い日記のやうなものを引張り出して、あれこれ探して見たけれども、会つた日と、会つた時の連れの名前と、その他会ひに行く迄の段取のあらましとが書いてあるだけで、肝腎の吉右衛門の第一印象に就いては、何所にも何も書き留めたものがない。思ふに、当時吉右衛門に会ふといふ事は、私にとつては一つの「事件」だつたのだから、吉右衛門に会つて私の頭はその印象で一杯になつてしまひ、それが幾日か続いた為、筆をとつて書き残して置かうと企てても、旨くその整理をつける事が出来ないので、尻切れのまま途中で已めてしまつたものらしい。それでも今、かうしてその記述の断片を前に置いて眺めてゐると、晴れて行く霧の朝かなぞのやうにさまざまな光景が、ぽつりぽつりとその姿を現はしてくる。 日記の初めに「十二月五日」とある。吉右衛門が『光秀』をやって、菊五郎が『実盛』を出し
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