野村胡堂
野村胡堂 · 日语
野村胡堂 · 日语
首段预览
原文 (日语)
「お願いで御座いますが…………」 振り返って見ると、同じ欄干にもたれた、乞食体の中年の男、鳴海司郎の顔を下から見上げて、こう丁寧に申します。 春の夜の厩橋の上、更けたという程ではありませんが、妙に人足が疎らで、風体の悪い人間に声をかけられると、ツイぞっとするような心淋しい晩です。 見ると、人品骨格満更の乞食とも思えませんが、お釜帽の穴のあいたのを目深に、念入のボロを引っかけて、片足は鼠色になった繃帯で包み、本当の片輪かどうかはわかりませんが、怪し気な松葉杖などを突っ張って居ります。 時も時、場所も場所、「煙草をくれ」か、精々「電車賃をくれ」ぐらい、よくある術だと思い乍ら、鳴海司郎はかくしへ手を入れて、軽くなった財布を引出そうとすると、 「イエイエ、お金を頂き度いと申すのでは御座いません。お願いですから私の傍から少し離れて、向うの方を向いたまま、私と全く関係の無いような様子で、私の申すことを聞いて頂き度いのです」 乞食にしては言葉が上品で、それに言う事がヒドク変って居ります。好奇心の旺んな若い男でもなければこんな突飛な申出を、素直に聴かれるものではありませんが、鳴海司郎、幸にして年も若く
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