野村胡堂
野村胡堂 · 日语
野村胡堂 · 日语
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原文 (日语)
「親分、ちよいと江戸をあけますがね」 八五郎はいきなりこんなことを言つて來たのです。彼岸を過ぎたばかり、秋の行樂の旅にはまだ早過ぎますが、海道筋は新凉を追つて驛馬の鈴の音も、日毎に繁くなる頃です。 「江戸をあける?――大層なこと言やがるぢやないか、日光へ御代參にでも出かけるのか、それとも――」 錢形平次は滅法忙しいくせに、相變らず暇で/\仕樣がないやうな顏でした。空茶を鱈腹呑んで、無精煙草を輪に吹いて、安唐紙の模樣を勘定し乍ら、解き切れなかつた幾つかの難事件を反芻し、人と人との愛慾の葛藤の恐ろしさに、つく/″\捕物稼業が嫌になつて居る矢先でした。 「からかつちやいけません。江戸をあけると言つたところで、ほんの三四日。町内の氣の合つたのが、江の島に落合つて、祭の相談でもしようといふ寸法なんで」 「來年の祭の相談は早手廻し過ぎはしないか」 「鬼なんざ笑つたつて、驚くやうな手合ぢやありませんよ。何しろうまいこと用事を拵へて、八方から集まるのがざつと十三人、――どの仲間へも入れなかつた、あつしと相模屋の若旦那の榮三郎が、それを江の島まで迎へて、三日ばかり海を眺め乍ら底拔け騷ぎをやらうといふ計略
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